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2011/02/15

幻冬舎MBO: イザベルが今後、TOB価格が安すぎるとして提訴する可能性もある

安易なMBO、割安買い取りで株主に損失 幻冬舎の上場廃止決定
2011.2.15 20:24



 経営陣による自社買収(MBO)を目指すジャスダック上場の出版社の幻冬舎は15日、都内で臨時株主総会を開き、MBO実施に必要な定款変更の議案が承認された。この結果、同社は3月16日に上場廃止となることが決まった。MBOには、英領ケイマン諸島に所在し同社株を3分の1超保有する投資ファンドが反対していたが、株式が証券会社の名義となっていたため、阻止できなかった。

 最近、MBOによる上場廃止に踏み切る企業が増えているが、安値での買い取りにより、株主が損を強いられるケースもあり、「安易なMBOは株主の利益に反する」との声も上がっている。

 「出版社が上場にあまり向いていないことが身に染みた」

 総会を終えた幻冬舎の見城徹社長は、報道陣を前にこう感想を漏らした。

 議案は、見城社長が代表を務めるTKホールディングスが全株を取得しやすくするもので、総会に参加した株主の3分の2以上の賛成が必要な特別決議で可決された。TKはすでに株式公開買い付け(TOB)で58・17%の株式を保有しており、残り株を強制的に取得できるようになった。

 幻冬舎が、1株22万円でMBOのためのTOBを発表したのは昨年10月。これに対し、その直後に設立された投資ファンド「イザベル・リミテッド」が幻冬舎株を買い進め、12月末現在で議決権ベースで35・44%取得した。

 幻冬舎側は、買い取り価格を24万8300円に引き上げたが、イザベルは応じず、「さらに高値での引き取りを求めてきた」(関係者)という。

 今回の総会では、3分の1超を持つイザベルが反対すれば議案は否決され、上場廃止も頓挫する可能性があった。しかし、イザベルは信用取引で取得していたため、名義は仲介した立花証券のままだった。立花は、「中立の立場」から議決権行使を見送り、その結果、議案が成立した。

 イザベルが今後、TOB価格が安すぎるとして提訴する可能性もある。

 実際、幻冬舎のTOB価格は、発表直前の終値に約5割上乗せしたとはいえ、会社の解散価値を示す1株当たりの純資産額の約35万8千円を大きく下回る。経営者がMBO後に会社を解散すれば、巨額の利益を得られることになる。

 MBOは今年に入り、ソフトレンタルチェーン「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブや引っ越し業のアートコーポレーションなど6件と急増している。上場コストの軽減に加え、株主の利益に縛られず中長期の視点で経営を行うことなどが目的だ。

 ただ、企業価値を十分に向上させることができず株価が低迷し、買い取りに応じるしかない株主に損失が出るケースもある。企業法務に詳しい南繁樹弁護士は「いったん上場した以上は株主に対して道義的責任があり、株主に対する配慮を忘れるべきではない」と警鐘を鳴らしている。