2011年 02月 15日 15:16 JST
[東京 15日 ロイター] 幻冬舎(7843.OS: 株価, ニュース, レポート)は15日、臨時株主総会でMBO(経営陣が参画する自社買収)に必要な種類株式発行などに向けた議案が可決されたと発表した。
幻冬舎の議決権を大量に保有する立花証券は総会を欠席し、議決権を行使しなかった。信用取引で一時、幻冬舎の株式を大量に保有したケイマン籍のファンド、イザベル・リミテッドは代理人弁護士が出席し反対票を投じた。
定款変更が承認されたことで、MBOは成立することとなり、幻冬舎の株式は3月16日付で上場廃止になる予定。
見城徹社長は15日の臨時株主総会終了後、記者団に対し、「(MBOが成立することになり)大変嬉しい」と述べたうえで、一時、イザベルによる買い増しが進んだことについて「相当困惑した。どうしようという時期はあった」と語った。
見城社長によると、イザベルの幻冬舎保有株は、現在わずか300株。今後、イザベルがTOB価格(24万8300円)より高い水準で買い取り請求してきた場合は「粛々と対応する」と述べた。総会で反対票を投じたイザベルは「(TOB)価格に不満だったと理解している」(見城社長)という。総会前に2度の面談をし、「37─38万円で買い取って欲しい。議決権プレミアムを付けて考えて欲しいと言っていた」(同)が、見城社長はTOB価格以外で買い取るつもりはないと説明したことを明らかにした。
総会に出席した70代の株主からは「(TOB)価格の合理性がない。1株純資産(で買い取るの)は標準だろうと思った。上場したいので上場したのに面倒なのでやめるというのは許せない」との意見もあった。しかし見城社長は、今回のTOB価格は十分なプレミアムを乗せた水準で「きちんとした価格だった」と価格の妥当性を強調した。
TOB価格は、幻冬舎の資産価値と比べて相対的に安いとの指摘がでていた。幻冬舎の1株あたり純資産はMBOを決議する直前の2010年9月末、1株あたり純資産は37万6060円。TOB価格は、株価純資産倍率(PBR)1倍以下で企業の解散価値を下回る水準ということから、一定期間の終値平均値にプレミアムを乗せていても低すぎるとの指摘があった。
イザベルについて見城社長は「(狙いは)短期的な利益の最大化だったと思う」との考えを示したうえで「なぜ(ファンドの)正体を隠すのだろうか。普通は正体を名乗り理念を言うのだが」と不信感を示した。
立花証券とは総会前に2度会い、幻冬舎は議決権行使の委任状を提出して欲しいと要請したという。総会で立花が議決権を行使しなかったことについては「公明正大な態度を取って下さった」とコメントした。
幻冬舎をめぐっては昨年末、見城社長が全株式を保有するTKホールディングス(東京都千代田区)がMBOに向けた株式公開買い付け(TOB)を実施、58.17%の株主が応募してTOBは成立した。ただ、TOBに応募のなかった残りの株式を会社側が取得するため、臨時株主総会を開いて種類株を発行できるように定款を変更する必要があった。
幻冬舎のTOB自体は成立していたが、イザベルが株式を買い増し、議決権ベースの保有比率は今年1月20日提出の大量保有報告書で37.4%に達していたことが判明。イザベルが議決権を行使すれば、定款変更のための特別決議は否決され、MBOは成立しない公算が高まっていた。
その後さらに2月3日、幻冬舎の株式を制度信用取引で取得していたイザベルは、現物株を引き取っておらず、大半の議決権(35%程度)を握っていたのは信用取引を仲介した立花証券(東京都中央区)だったことが判明。臨時株主総会では、イザベルに代わって、立花証券が議決権を行使するか否かが注目されていた。
立花証券が議決権の大半を保有していたのは、イザベルが信用取引で買い集めた幻冬舎の株式の多くについて、代金を精算し現物株を引き取る「現引き」をしていなかったことが原因だった。
証券会社が、顧客であるファンド(イザベル)のために議決権を行使できるか否かをめぐっては、証券会社が顧客にかわって権利行使することは問題ないとする見方がある一方、制度信用取引では想定されていない事例で、問題があるとの見方に分かれていた。
(ロイターニュース 江本 恵美;編集 石田仁志)