ページ

2011/02/08

河村氏も地域政党「減税日本」を設立し3月の出直し市議選で独自候補を立てて過半数確保をうかがう。首長の政策実現に消極的な議会との「対話」より選挙を通じた議会刷新を目指すのは、橋下氏も同じだ

乱気流:’11地方選 トリプル投票、河村氏完勝 存在感増す首長新党
 ◇大阪、名古屋--次は東京--橋下知事
 ◇東国原氏「喝采したい」



 統一地方選の前哨戦となった6日の愛知県知事選、名古屋市長選、同市議会解散の賛否を問う「トリプル投票」は、脱既成政党を打ち出した河村たかし氏(62)の完勝となった。今春の統一選をにらみ、地方自治の現場でどんな「乱気流」が起きているのか。日本各地の動きを報告する。

 「おめでとうございます」--トリプル投票から一夜明けた7日朝、橋下徹大阪府知事(41)は、名古屋市長選で再選した河村氏、愛知県知事選で初当選した大村秀章氏(50)の携帯電話にお祝いのメッセージを入れた。前夜、開票状況を府内の自宅で見守った橋下氏は同日朝、記者団に対し「河村氏のやり方は注目させてもらって、統一地方選の戦略に生かしたい」と語った。

 橋下氏はトリプル投票に積極的にかかわった。名古屋市長選が告示された1月23日、橋下氏は名古屋市内の繁華街で街頭演説。橋下氏自ら代表を務める地域政党「大阪維新の会」からも、統一選の大阪府議選、大阪、堺両市議選に立候補予定の約70人が同行した。

 橋下氏と河村氏の政治手法は似通う。河村氏も地域政党「減税日本」を設立し、3月の出直し市議選で独自候補を立てて過半数確保をうかがう。首長の政策実現に消極的な議会との「対話」より、選挙を通じた議会刷新を目指すのは、橋下氏も同じだ。

 「地域政党が手を組めば皆さんの鬱憤、既存政党への不平不満を晴らしてみせる」。橋下氏が名古屋市の街頭でこう訴えると、集まった市民から大きな拍手がわいた。橋下氏は前日の1月22日、河村氏に「有権者には既存政党へのフラストレーションがたまっている。河村さん、僅差ではつらい。圧勝して流れを作ってほしい」と発破をかけた。

 そんな橋下氏の思惑通り、河村氏は名古屋市長選で過去最多得票を達成。与野党対立が長引き、政治の閉塞(へいそく)感が募るなか、二つの首長新党は民意の受け皿として、存在感を徐々に増している。橋下、河村の2首長が主役を競い合い、統一選の幕が上がった。

 橋下、河村両氏の連携はともに地域政党を設立した昨年春以降、本格化した。昨年5月と7月の大阪市議補選。維新の会が初めて臨んだ地方選挙で、河村氏は橋下氏の依頼で応援に駆けつけ、維新の会候補の勝利を喜んだ。代わりに名古屋市議会解散の署名集めが終盤を迎えた昨年9月20日、橋下氏が名古屋入り。署名の集まりが悪く不安を抱いていた河村氏にとって、府知事の応援は大きかった。

 「平成の薩長同盟としたい。既得権に凝り固まった幕府を倒す」

 昨年12月20日、大阪市中央区内のホテルで開かれた維新の会の会合で、大村氏は声を張り上げた。河村氏も「どっちが薩摩か、長州か分からんけど、同じ志。呼んでもらえるならいつでも(応援に)来る」と続く。同席した橋下氏が満足そうにうなずいた。

 愛知との連携後、橋下氏がにらむのは4月の首都決戦、東京都知事選だ。大阪府と大阪、堺両市を一体化する「大阪都」構想を唱える橋下氏には「東京で議論に火がつけば、国政政党も動いてくる」との読みがある。都構想実現には制度改正が必要なだけに、橋下氏は記者会見で「大阪、中京、東京が連携して、30年後日本を引っ張る大都市圏をつくろう」と呼び掛けた。

 すでに動きはある。東京都知事選への出馬準備を進める東国原英夫・前宮崎県知事(53)は昨年12月28日夜と今年1月27日夜、橋下氏と大阪市内で会食。大阪都構想を説明する橋下氏に対し、東国原氏も「面白い」と応じた。会食後、東国原氏は大阪維新の会の活動についても「こういう動きを喝采したい。地方分権を考えるきっかけだ」と持ち上げてみせた。

 一方、河村氏は国政選挙にもかかわろうとしている。4月24日に行われる衆院愛知6区補選で独自候補の擁立も検討。河村氏は民主党衆院議員当時から、同党の小沢一郎元代表と親交があり、補選での協力も模索している。

 ◇広がる「都構想」 異なる具体像
 「新潟でいよいよ都構想が持ち上がった。愛知でも中京都構想。我々は大阪都。政令市のあり方に対する挑戦です」

 名古屋市での「トリプル投票」の選挙戦さなかの1月25日。橋下氏は、東京都千代田区の日本記者クラブで、在京メディアの記者を前に持論の「都構想」の意義を強調した。東京でのアピールは統一地方選をにらみ、「都構想を全国区にし、国を動かす」というシナリオを進めるためだった。

 大阪都構想とは、大阪市と堺市の両政令市を解体し、両市の近隣市を含めて約20の特別区を設け、その他の市町村と合わせて「大阪都」として再編する構想。大阪市長をなくし、広域行政の権限を都知事に集中させることで、大阪府と政令市との二重行政を解消するのが狙いだ。

 大阪発の都構想はじわりと広がりを見せている。橋下氏の会見にタイミングを合わせるかのように、新潟県の泉田裕彦知事と新潟市の篠田昭市長は同じ1月25日、県と市が合併し「新潟州」設立を目指す構想を発表。篠田市長は「統一地方選のある今年は地方自治を考える最適の年。新潟州というインパクトのある旗を立て、有権者の関心を盛り上げる」と意気込む。

 愛知県知事選を制した大村氏も、選挙戦の目玉公約として「中京都構想」を掲げてきた。大村氏は当選直後の6日夜の記者会見で、中京都構想の具体化に向けて、名古屋市や民間と合同で「中京独立戦略本部」を設立する方針を表明。河村氏も「今月中に絵姿を作りたい」と述べ、戦略本部の概要を月内にまとめる意向を示した。

 政令市を抱える大阪府、愛知県、そして新潟県へと広がる都(州)構想は、地域政党をつなぐ政策面でのツールに映る。ただし、大阪都構想が自治体再編に力点を置くのに対し、中京都構想は自治体の課税自主権と自由な起債を重視する。具体像は異なり、発信源の大阪府を除き、まだイメージ先行のきらいは否めない。

 片山善博総務相は1日の閣議後会見で、都構想について「巨大な基礎的自治体(政令市)と、それを包括する広域自治体(府県)を一緒にすると、チェック機能が働かなくなるのではないか」と疑問を呈した。その上で「大都市の行政体制のあり方はあまり論じられていない。検討の場を設けたい」と述べた。【福田隆、笈田直樹、高橋恵子】

毎日新聞 2011年2月8日 東京朝刊