2010.12.7 23:22
国連気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)で途上国などが求める京都議定書の延長が現実になれば、産業界が受ける打撃は計り知れない。最悪のシナリオは、米国や中国などが一切義務を負わない議定書の枠組みが維持されたまま、民主党政権が国際公約した温室効果ガス排出量の25%削減をのまされる事態だ。ただでさえ京都議定書で不利な条件にさらされてきた日本企業の国際競争力は著しく低下する。
「“鉄は国家なり”といわれた時代もあったが、これからは国内で鉄をつくるなということだ」。延長論の高まりに対し、国内CO2排出量の約4割を占める鉄鋼業界関係者は嘆く。
京都議定書は、米国を除く先進国に対し2008~12年の温室効果ガス排出量を年平均で少なくとも5%削減(1990年比)することを義務付けた。日本は6%削減を課せられている。
これだけでも世界最高の省エネを実現してきた日本企業には過大な負担だ。京都議定書では、他国から排出枠を購入して自国で排出削減したとカウントすることも可能だが、排出枠購入分に限っても2008~12年に日本政府と産業界で計7800億~1兆5600億円が必要とされる。日々の省エネ努力とは別に、これだけ巨額の支出が求められているわけだ。
問題は、議定書を延長した場合、この負担がさらに増えかねないことだ。途上国が求める延長論は、従来の排出削減目標を単純に引き継がず、新たな目標を設定するという内容。その際には、日本が国連に登録した「20年に90年比で25%削減」という数値が「議論の前提となることは避けられない」(経済産業省幹部)とみられているためだ。
25%削減の負担は世界でも突出して大きい。地球環境産業技術研究機構(RITE)の試算では25%削減のためCO2を追加的に1トン減らすのに必要な「限界削減費用」は476ドル(約4万円)。これは日本と同様に京都議定書で削減義務を負い、90年比で20~30%削減を表明している欧州連合(EU)の3・5~10倍も割高となる。その実現には、例えば粗鋼生産量を18%削減するなど経済活動を大幅に抑制しなければならないという試算もある。
もともと25%削減は、米中を含む主要排出国すべてに同等の削減を義務付ける前提で提唱したものだ。それが米中や韓国など日本のライバル抜きで先行して義務付けられると、日本企業の競争力は壊滅的に低下しかねない。産業界は「現行の生産態勢は維持できず海外移転などが必要。円高以上のインパクトだ」(自動車大手)と恐れている。