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2010/12/18

『日経』 安保強化へ防衛大綱の着実な実行を

安保強化へ防衛大綱の着実な実行を
2010/12/18付

 長期的な防衛のあり方を示した新たな防衛計画の大綱(防衛大綱)が決まった。海軍力を増強する中国をにらみ、南西諸島や島しょ部の防衛を手厚くするほか、核兵器開発を進める北朝鮮を見すえ、ミサイル防衛力を強めることをうたった。

 日本が直面する安全保障上の課題のなかでもこの2つは優先度が高い。防衛大綱は正しい方向性を示したといえるが、陸上自衛隊の効率化がなお不十分など宿題も多い。

 日本は大小、6千以上の島からなる。なかでも南西諸島は中国海軍が太平洋に抜ける際の重要な出口であり、潜在的な危険にさらされている。この防衛を強めることは日本の安全にとって重要であると同時に、中国海軍の進出を警戒するアジア諸国の不安にも応えることになる。

 ところが米ソ冷戦以来、日本はソ連の脅威を想定して北海道に多くの戦車などを配備する一方、南西諸島の守りは手薄になっていた。

 防衛大綱はこうした状態を改めるため、潜水艦を16隻から22隻に増やすことを決めた。同時に公表した中期防衛力整備計画(中期防、2011~15年度)では、南西地域の島しょ部に陸上自衛隊の沿岸監視部隊を配置することなども打ち出した。

 もうひとつの優先課題は北朝鮮への対応だ。北朝鮮のミサイル射程内にある日本にとって、北朝鮮の核開発は深刻な脅威。政府がミサイル防衛対応型のイージス艦を2隻増やす計画を明記したのも、その表れだ。

 政府は冷戦以来、ソ連の上陸などを想定し、自衛隊の部隊を全国に均等に配置する「基盤的防衛力」構想をかかげてきた。今回の大綱ではこれを完全に撤回し、さまざまな事態に柔軟に即応できる「動的防衛力」の構築をうたった。部隊の配置や装備の構成を固定化せず、情勢に応じて変化させるという考え方だ。

 厳しい財政事情の下で減り続けている防衛予算を効率的に使うためにも、当然の路線転換である。

 今回、陸上自衛隊の編成定数は、前回の04年大綱の15万5千人から1千人減にとどまった。中国軍をにらんだ海空の防衛強化に人員や装備を傾けるうえでも、陸上自衛隊の一層の効率化が重要である。

 政府・与党内で議論になった武器輸出三原則の見直しは、新大綱では見送った。同原則は同盟国である米国向けの一部を例外として、武器だけでなく関連技術の輸出も禁じており、日本は装備品の国際的な共同開発・生産に加われない。これが装備品調達のコスト高の一因になっており、引き続き緩和を検討すべきだ。