日本、エジプトやサウジアラビアと原子力協定を検討
未調印国と原子力協力模索 IAEA議定書で政府内に動き '10/12/25
原子力発電関連の技術や資機材の輸出を推進する政府内で、エジプトやサウジアラビアなど、国際原子力機関(IAEA)の査察権強化につながる追加議定書を結んでいない国との原子力協力を模索する動きがあることが25日、分かった。複数の政府関係者が明らかにした。
日本はこれまで議定書の世界的な普及に努めてきたが、「成長戦略」を掲げて海外での日本企業の原発受注を目指す菅政権下で、日本の核不拡散政策の柱の一つが空洞化する恐れが出てきた。
関係者によると、今年10月22日に開かれたインフラ輸出の関係閣僚会合で、経済産業省を中心にエジプトとの原子力協力に積極的な意見が浮上。これに対し、前原誠司外相が同国の追加議定書未調印を問題視し、「留意」を表明した。
政府は日本企業によるベトナムでの原発受注成功を受け、今後も原発輸出を拡大する方針。既にブラジルと水面下の政府間協議に着手したほか、トルコやメキシコ、マレーシア、タイとの協定交渉も視野に入れ始めた。
ブラジルは追加議定書を結んでいないが、隣国アルゼンチンとの間に査察協定があり、一定の透明性を確保。トルコやメキシコ、マレーシア、タイは既に追加議定書を締結したか、締結方針だ。
ほかにもサウジが検討対象となっているが、エジプト同様、追加議定書に調印しておらず、政府内には慎重論がある。
これまでエジプトは一貫して、「原子力の平和利用の権利」を盾に追加議定書に反対。5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議では日本やオーストラリアなどが議定書をIAEAによる査察の「基準」とするよう主張したが、エジプトは激しく抵抗した。
内部告発ウェブサイト「ウィキリークス」が入手した米公電から、エジプト、サウジ両首脳が、イランが核保有すれば、自国も核開発する可能性を米国に警告したことが分かっている。
日本は自公政権時代の2008年、NPT未加盟の核保有国インドに対し、原子力関連の禁輸を解除する原子力供給国グループ(NSG)の決定に賛同。政府は6月以降、同国との原子力協定交渉を進めているが、被爆国の核不拡散政策に反するとして異論も根強い。(共同=太田昌克)
原子力協定
核物質や原子力関連の資機材・技術を平和利用を前提に移転するための法的枠組み。IAEA査察の受け入れや第三国への移転規制が盛り込まれる。日本はカナダ、豪州、中国、米国、フランス、英国の6カ国と欧州原子力共同体との間で締結。ロシアとの間では、07年2月のフラトコフ首相(当時)の訪日時に交渉開始で合意した。
( 2009-05-13 朝日新聞 朝刊 2総合 )