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2010/12/16

中国CCTV、香港には約6500億ドルのホットマネーが滞留し、年末に10兆ドルを突破するとの見通し

バブル拡大もたらすホットマネー、香港経由で中国本土へ流入=香港ポスト
【経済ニュース】 2010/12/16(木) 13:39

 中国中央電視台(CCTV)で先ごろ、大量のホットマネーが香港経由で中国本土に流入し資産バブルを引き起こしていると報道され物議を醸した。先進諸国の金融緩和によって中国をはじめとする新興市場には大量の資金が流れ込み、不動産市場や株式市場などで投機活動が行われているという。特に人民元の切り上げ観測から中国は格好のターゲットとなっており、香港がそのホットマネーの前衛基地になっていると指摘されている。中国では資産バブル拡大やインフレを抑制するため、ホットマネー流入を防ぐのに躍起となっているが、果たして香港はどのような役割を果たすのだろうか。


CCTVの報道で物議

 CCTVの経済番組『経済信息連播』は2日間にわたりホットマネーが香港経由で中国本土に流入している実態を報じた。目下のところ香港には約6500億ドルのホットマネーが滞留し本土での不動産・株式投機の機会をうかがっているという。さらに中国銀行(香港)のエコノミストが同じくCCTVの番組で、ヘッジファンドが運用し香港に滞留するホットマネーは年末に10兆ドルを突破するとの見通しを述べた。

 ヤミ金融の調査を行っている広東社会科学院総合開発研究中心の黎友煥・主任が番組で語ったところによると、香港から本土に流れ込むホットマネーの勢いは増し、かつては香港・マカオ・台湾の資金が主だったが、近年は欧米や日本の資金も流れ込み、その60-65%は商品市場、30%前後は株式市場に流れ、食料や原材料への投機による価格高騰を引き起こしているという(11月25日付『信報』など)。

 本土へのホットマネー流入ルートには、香港の銀行口座から少しずつ現金を本土の銀行口座に移す「アリの引っ越し方式」や、貿易・投資を名目とした偽装送金も含まれる。深センの小売店などを窓口にしているヤミ金融では毎日のように大量の香港ドルを人民元に両替する人が訪れ、一度に数十万ドル両替する人が増えているとの報道もある。先にはこうしたヤミ金融の大規模な摘発も行われた。

 香港に滞留する資金の目安となるマネタリーベースは11月23日に約1兆300億ドルに達した。金融危機が発生する前の2008年8月に比べると3倍以上に膨れ上がっており、過去2年余りの間に大量の資金が海外から流入したことがうかがえる(11月25日付『明報』)。

 特区政府財経事務及庫務局の陳家強・局長は11月25日、CCTVの報道についてコメントし、「本土の資本市場はまだ開放されておらず、香港や海外の資金が本土に入る場合はすべて正規のルートを通じ当局の監督管理を受ける。香港に流入した資金の大部分は新規株式公開(IPO)によるもので、中国企業が上場の際に調達した資金を置いているだけだ。これらはホットマネーではない」と否定的な見方を示した。陳局長はまた、ヘッジファンドが世界中で運用している資金は約16兆ドルのため、そのうち10兆ドルもが香港に集中していることはあり得ないと公式ブログで述べている。


人民元業務預金2000億元突破 拡大する
  
 切り上げ観測のある人民元に投資家の関心は高く、香港域内でも最近は保有量がうなぎ上りである。香港金融管理局(HKMA)が11月30日に発表した統計によると、10月末現在の香港の金融機関の人民元預金残高は前月比45.4%増の2171億元に達した。伸び率は過去最大。7月に1000億元を突破したのに続き、早くも2000億元の大台に乗った。主に企業が貿易決済を通じて得た人民元が増加したためと説明している。

 中国人民銀行(中央銀行)は12月6日、人民元建て貿易決済の試行企業拡大とその企業リストを発表した。人民元の国際化がまた一歩進むこととなる。人民元建て貿易決済が認められる企業は国内16省・自治区・直轄市の6万7359社となり、これまでの365社から180倍余りの大幅な拡大となる。今年6月に人民元建て貿易決済の範囲が拡大されてから11月までの決済総額は3400億元で、拡大前の7倍余りに上った。

 ホットマネー流入への懸念から先送りされているとみられていた「小QFII(適格国外機関投資家)」も間もなく実現する見通しだ。HKMAの陳徳霖(ノーマン・チャン)総裁が11月30日、銀行協会の代表団を率いて北京を訪問した際、中国証券監督管理委員会との会談で小QFIIの検討・審査を急ぎ、できるだけ早く実現させる意向を確認した。これは香港の中資系証券会社やファンド会社を通じて本土の株式などに投資するもので、人民元の資本取引開放の一歩となる。また海外に滞留する人民元を本土に還流するシステムの一つともなる。

 資本取引開放ではほかにも動きがある。東亜銀行は11月18日、傘下の東亜銀行(中国)が新疆ウイグル自治区で初めて人民元による海外への直接投資(ODI)を決済したと発表した。これは中国人民銀行が10月に発表した「新疆での人民元建てによる越境直接投資決済試行の暫定弁法」に基づく第一号案件となる。同弁法によって新疆は中央政府が人民元の資本取引を開放した最初の地域に指定され、地元企業による海外での企業設立・投資と外国企業による企業設立・投資で人民元を利用できることとなっている。

 中国は国家金融の安全確保のため資本取引の開放は慎重に進めており、同時に人民元還流ルートの整備も急いでいる。正規の還流ルートをつくることによってヤミ金融がはびこるのを防ぐ考えだ。11月26日付『香港経済日報』は社説で「一部のホットマネーが香港に滞留しているということは、香港が防火壁の役割を果たしているわけだ」と論じている。さらにその役割が今後の人民元業務開拓の鍵になると指摘している。国際資金の窓口である香港は、本土へのホットマネー流入の緩衝地となり得る。香港が中国の金融を脅かす前衛基地となるか、安全を確保する防火壁となるか。それを左右するのが人民元業務拡大の行方である。(執筆者:香港ポスト 編集部・江藤和輝 編集担当:水野陽子)