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2014/01/30

青銅鏡「三角縁神獣鏡」は「魔境」だった 

「卑弥呼の鏡」は魔鏡、背面の文様を投影

 邪馬台国の女王・卑弥呼ひみこの鏡ともいわれる三角縁神獣鏡さんかくぶちしんじゅうきょうが、鏡面に光を反射させると背面の文様が壁に映し出される「魔鏡」の特性を持つことがわかり、京都国立博物館の村上隆・学芸部長が29日発表した。

 国内の古代鏡で確認されるのは初めて。太陽を崇あがめる祭祀さいしで光を操り、権威を高める役割があったとみられ、古代鏡の用途などを解明する糸口となりそうだ。

 魔鏡と確認されたのは、愛知県犬山市の東之宮ひがしのみや古墳(4世紀初め)で出土した2面(直径21~23センチ、重要文化財)。立体物を精巧に再現する3Dプリンターで復元模造品を作り、実験した。この日の記者発表でも、鏡に光を当てると、神像がうっすらと映し出された。

(2014年1月30日00時31分  読売新聞)






「卑弥呼の鏡」は魔鏡 太陽光反射文様浮かぶ

2014年1月30日 朝刊



 「卑弥呼(ひみこ)の鏡」と呼ばれる三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)が、鏡面に太陽光を当て壁に反射させると、裏面の文様を映し出す「魔鏡(まきょう)」だったことが分かり、京都国立博物館の村上隆(りゅう)学芸部長(歴史材料科学)が二十九日、発表した。愛知県犬山市の東之宮古墳(三世紀後半)で出土した三角縁鏡を基に、3Dプリンターを使って精巧なレプリカを作って実験した。魔鏡は中国では紀元前からあるが、日本でしか出土しない三角縁鏡で確認されるのは初めて。

 三角縁鏡は裏面に道教の神仙思想に基づく神獣像を表現。倭国(わこく)の女王卑弥呼が中国・魏から与えられた「銅鏡百枚」とする説があり、各地に配布されたとみられている。

 これまで中国との政治的な結びつきを示す遺物として主に文様や銘文が研究されていたが、当時の支配者が人心掌握するための呪術具として使っていた可能性も出てきた。

 村上部長は東之宮古墳で出土した三角縁鏡を含む青銅鏡十一面を二〇〇九年に三次元計測。一一年、3Dプリンターを使い、レーザーで溶かした金属粉を二十~三十マイクロメートル単位で積み上げて、「三角縁唐草文帯二神二獣鏡(さんかくぶちからくさもんたいにしんにじゅうきょう)」(直径約二十一センチ)「三角縁唐草文帯三神二獣鏡」(同約二十三センチ)の二枚を復元した。鏡面を磨き、太陽光を反射させたところ、縁の部分などが同心円状に浮かび上がった。実物には、さびがある上、重要文化財で磨くことができないため、実験はできない。

 一九九一年には奈良県立橿原考古学研究所付属博物館が鋳造した中国鏡レプリカで現象を確認。薄さが一・五ミリ以下の鏡で確認される可能性が高いと結論付けていた。

 三角縁鏡は国内でこれまで五百枚以上が出土。多くが魔鏡となる可能性があるとみる研究者もいる一方、年代の異なる三角縁鏡でも確認できるのか、検証が必要とする意見もある。


◆不思議な力、利用か
<菅谷文則奈良県立橿原考古学研究所所長の話> 東之宮古墳以外で出土する三角縁鏡の中にも、魔鏡現象を起こすものがあったと思う。太陽を捉えた摩訶(まか)不思議な力として支配者が利用したのかもしれない。三角縁鏡は古いものは厚く、時代を経ると薄くなり、ある時期から作られなくなる。魔鏡現象に気付いてからは意図的に作られ、現象に人々が驚かなくなって製造されなくなったのかもしれない。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014013002000133.html




「卑弥呼の鏡」は「魔鏡」 3Dプリンターで復元 

2014/1/29 17:00
 3次元(3D)プリンターを使って「卑弥呼の鏡」との説がある古代の青銅鏡「三角縁神獣鏡」の精巧な金属製レプリカを製作したところ、壁に投影した反射光の中に鏡の背面に刻んだ文様が浮かび上がる「魔鏡」と呼ばれる現象が起きることが分かり、調査した京都国立博物館の村上隆学芸部長が29日発表した。

 鏡は古代の祭祀(さいし)で用いたと考えられているが、具体的役割は不明だった。この現象は太陽光線など平行光で特に顕著で、人心を掌握するのに用いた可能性や、太陽信仰との関連を指摘する意見もあり、古代鏡の研究に新局面をもたらしそうだ。

 こうした現象を起こす鏡は古代中国の漢代に登場。日本では江戸時代に隠れキリシタンが用いたものなどが知られるが、国内の古代鏡で確認されたのは初めてという。

 レプリカは、愛知県犬山市の東之宮古墳から完全な形で出土した鏡2面(直径はそれぞれ約24センチ、約21センチ)を復元したもの。三角縁神獣鏡の平均的な組成と同じ比率の銅、スズ、鉛の金属粉を材料にレーザー積層造形法で製作した。

 この現象は背面に凹凸があり、厚みが不均一な鏡を研磨する際、鏡本体にひずみが生じて厚い部分がかすかに凹面に、薄い部分が凸面になって反射光にムラが出ることが原因。全体が薄く、背面に彫りが深い突出した文様があるなど厚みに幅がある鏡だと現れるという。

 復元した三角縁神獣鏡は背面の中央や三角形の縁部、神獣像などが厚く、中央の最厚部は約2センチあるのに対し最も薄い部分は1ミリ以下。

 村上部長は「他の古代鏡でも同じ現象が起きる可能性はあるが、この三角縁神獣鏡は特に条件がそろっている。なぜこんなに薄く仕上げたのか謎だったが、現象が起きるまで研磨した可能性もある」と指摘。「古代鏡の役割を考え直す手掛かりになれば」と話している。


http://www.nikkei.com/article/DGXNASHC2902G_Z20C14A1000000/



卑弥呼の鏡は古代の「魔鏡」 反射光に浮かぶ文様

2014年1月30日05時47分


3Dプリンターで複製した「三角縁神獣鏡」の鏡面に日光を当てると、背面の文様が壁に投影された=29日、京都市東山区の京都国立博物館、戸村登撮影

 「卑弥呼(ひみこ)の鏡」ともいわれる古代の青銅鏡「三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)」のなめらかな鏡面に光を当てたところ、壁に投影した反射光の中に反対側の背面に描かれた文様が映し出されることがわかった。京都国立博物館(京都市東山区)の村上隆(りゅう)学芸部長が精巧な複製品で確認し、29日発表した。鏡面にないはずの模様を映し出す「魔鏡」と同じ原理とみられ、「古代の銅鏡の使われ方を考える上で貴重な発見」としている。

 神獣鏡の背面には神仙や霊獣、唐草文などが浮き彫りにされ、断面に肉厚差がある。鏡面を磨いて加工する際、その圧力で表面が微妙にたわむが、肉厚が違う部分でたわみ具合が異なるため、肉眼では見えない凹凸ができ、それが模様を生み出す仕組みだ。

 中国の古代鏡でも同様の現象は知られ、国内でも江戸時代、隠れキリシタンの間で十字架やマリア像などが浮かび上がる「魔鏡」が作られたが、国内出土の鏡で確認されたのは初めて。

 歴史材料科学が専門の村上部長は、愛知県犬山市の東之宮(ひがしのみや)古墳から出土し、博物館が所蔵する三角縁神獣鏡2枚(直径約21~24センチ、国重要文化財)を分析。同じ材料の銅やスズなどの金属粉を使って、最新の3Dプリンターで複製した。

 今回の2枚に限らず、断面の肉厚差が大きい三角縁神獣鏡は同様の特性を持つとみているが、ほかの種類の鏡については不明という。鏡は祭器などとして用いられたと考えられているが、「魔鏡的な現象に古代の誰かが気づき、意識してこうした形状にしたのでは。太陽信仰との関係性もみえてくる」と話す。

 複製品は6月28日~8月31日、富山県の高岡市美術館で展示される予定。(佐藤剛志)

 ■銅鏡に詳しい大手前大総合文化学部の森下章司准教授(考古学)の話

 これまでの銅鏡研究が鏡の背面に注目するなか、最新技術で新しい切り口を生み出した。同じ古墳から数十枚が出土することもあるが、これらをいっぺんに並べて像を浮かべたのでは、などの想像も膨らむ。今後、古代の祭祀(さいし)における鏡の役割を考え直すことになる可能性もある。

 ■京都大人文科学研究所の岡村秀典教授(中国考古学)の話

 中国ではかねて「透光鏡(とうこうきょう)」と呼ばれる魔鏡の存在が知られていた。7世紀初めの隋時代の文献も、太陽光を鏡面にあてると裏の文様が映る鏡について言及している。三角縁神獣鏡にも魔鏡のような性質があると予想されてはいたが、最新技術による復元鏡を使って調べる方法はとても新鮮だ。ただ、これによって鏡をどこで製作したかなどの疑問に解答が得られたわけではない。今後、日本で作られたことがはっきりしている他の鏡でも同様の性質があるか調べ、比較する必要があるだろう。

     ◇

 〈三角縁神獣鏡〉 縁の断面が三角形で、3世紀ごろに作られたとされる。近畿を中心に九州から東北まで国内各地で500枚以上が出土している。中国・魏(220~265)の皇帝が邪馬台国の女王・卑弥呼の使者に銅鏡100枚を贈ったと「魏志倭人伝(ぎしわじんでん)」が記す239(景初3)年の銘が入ったものがあり、「卑弥呼の鏡」とも呼ばれるが、全て国内で作られたとの見方もある。







3Dプリンタで復元 「卑弥呼の鏡」は「魔鏡」と判明 太陽光を反射し「文様」浮かぶ (1/2)

3Dプリンタ技術を駆使して復元され、磨き上げられた「三角縁神獣鏡」は、光を反射すると複雑な文様を浮かび上がらせる「魔鏡」だったことが分かった。

[産経新聞]

 最新の3Dプリンター技術を駆使して復元され、磨き上げられた「三角縁神獣鏡」は、光を反射すると複雑な文様を浮かび上がらせた。邪馬台国時代、この神秘の鏡はどのような役割を果たしたのか。専門家は「新たな研究がスタートした」と期待を寄せる。

 復元した鏡が魔鏡であることを解明した京都国立博物館の村上隆学芸部長(60)。歴史的資料である出土品の鏡を磨くわけにはいかず、重要な役割を担っていたはずの鏡面の研究が進んでいないことにもどかしさを感じていた。それを可能にしたのが、3Dプリンターで作製した精密なレプリカだった。

 森下章司大手前大准教授(考古学)は「割れる危険性があるのに三角縁神獣鏡はなぜこれほど薄いのか、ずっと不思議だった。どれも薄い部分は厚さが基本的に1ミリ程度で、多くが魔鏡だった可能性がある」と話す。兵庫県立考古博物館の石野博信館長は「目の前に輝く日輪が現れ、人々はさぞ驚いただろう。女王卑弥呼のカリスマ性を高め、内乱が続く倭国をまとめるための演出に利用したのでは」と推測した。

 魔鏡作りを今も手がける山本合金製作所(京都市)の5代目、山本晃久さん(38)によると、薄い部分は壊れやすく慎重な作業が必要で、1枚完成するまでに2、3カ月かかるという。山本さんは「三角縁神獣鏡は柄が細かい。当時、そんな技術が存在したとはすごい」と話した。

魔鏡現象 金属製の鏡に光を当てて反射させると、裏面の文様が映し出される現象。鏡面を研磨すると、肉厚部の鏡面は削られてへこむのに対し、肉薄部の鏡面は金属がたわむため削られる量が少なく、相対的に出っ張りとなる。光を当てると凹部は集約して明るく、凸部は散乱して暗く映る。中国では紀元前1世紀ごろから「透光鑑」と呼ばれる魔鏡が作られ、江戸時代の日本でも隠れキリシタンが十字架などが現れる鏡を使っていた。明治時代に来日した欧米人がマジックミラーと呼び、魔鏡という名称が定着した。