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2011/06/25

機構がメーカーに発注した新しい装置の納期は「2012年12月末」。炉内にある核燃料は当面、取り出せない状態が続く。

もんじゅ落下装置回収 原因、責任所在検証へ





発電試験開始は不透明
日本原子力研究開発機構の高速増殖炉「もんじゅ」(敦賀市白木)で、核燃料交換用の「炉内中継装置」が24日、約10か月ぶりに原子炉内から取り出された。最悪の状況を脱したが、福島第一原発事故による安全対策の強化や原子炉の完全復旧、一連のトラブルの検証など課題は多く、今年度内の出力40%での発電試験開始は依然、不透明な状況が続く。(冨山優介)

■慎重作業
 密閉状態を確認しながらの準備作業で難航し、実作業は約7時間遅れで始まった。クレーンで引き抜く速度は10分でわずか24センチ。中断しては、装置の位置や密閉性の確認を繰り返した。ある機構幹部は「失敗は許されなかった。とにかく万全を期した」と明かし、引き抜き成功に安堵(あんど)の表情を見せた。


■今後の見通し
 機構は7月上旬、装置を分解点検して炉が傷ついていないか調べる。「可能性は低い」とするが、深刻な損傷や部品の脱落が見つかれば、炉内の点検など、大がかりな調査が必要になる。

 また、機構がメーカーに発注した新しい装置の納期は「2012年12月末」。炉内にある核燃料は当面、取り出せない状態が続く。敦賀市の幹部は「何かあっても核燃料を取り出せない原発が正常とは思えない」と指摘、発電試験への移行は難しいとの認識を示す。新装置の完成時期によっては工程に大きく影響する。


■最終報告書遅れ
 機構は昨年10月1日に落下トラブルの中間報告を国へ提出。引き抜き後の調査を経て最終報告をまとめる予定だったが、同月13日に2度目の引き抜きに失敗、検証は事実上ストップした。

 そもそも、県や敦賀市は最終報告に対する検討を踏まえ、発電試験への移行について判断する構えだった。失敗を繰り返さないためにも、一連のトラブルの責任の所在や原因を明らかにすることは不可欠で、機構は今後、検証作業を本格化させる必要がある。

(2011年6月25日 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/fukui/news/20110624-OYT8T00994.htm






もんじゅ落下装置、詳しく調査へ 年度内稼動は厳しく(2011年6月24日午後6時59分)
 日本原子力研究開発機構は24日、高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)で、原子炉容器内に落下していた炉内中継装置の回収を終えた。昨年8月以来、原子炉容器内に大型の構造物が落ちたままになっているという異常な事態は解消された。

 原子力機構は今秋には復旧作業を終えたいとしている。2011年度内の40%出力確認試験を目指しているが、福島第1原発事故を受け厳しい環境にある。

 原子力機構によると、引き抜き時の観察では、既に確認している同装置の継ぎ目以外に異常はみられなかった。継ぎ目を留めている8本のピンは付いていたという。回収した同装置本体を7月から詳しく調べ、原子炉に影響がなかったかなどを評価する。

 同装置は長さ12メートルの円筒状の構造物で、重さは3・3トン。昨年8月、燃料交換を終え搬出するため同装置をつり下げた際に落下した。回収を2度試みたが引き抜けず、「スリーブ」と呼ばれる上ぶたの一部と一体で引き上げる大がかりな工事となった。

 23日夜に始まった引き抜き作業では、装置に付着している冷却材のナトリウムが空気と触れないようにするため、炉上部に設置した耐熱性のじゃばら式容器を伸ばしながら、1分間で6センチずつ引き抜いていった。約8時間後の24日午前4時55分ごろ、回収作業を完了した。装置は原子炉建物内で約10時間冷やした後、メンテナンス建物に移動し洗浄。7月上旬から、分解するなどして詳しく調べる。

 近藤悟もんじゅ所長は「多くの関係者に心配をかけた。トラブル復旧に向け、一つの大きなステップを乗り越えることができた」とのコメントを出した。




もんじゅ装置回収も先行き不透明 問われる原発の安全、意義

(2011年6月25日午前8時10分)
 高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の原子炉容器内に約10カ月間も落下したままだった炉内中継装置の回収作業が24日完了したことで、試運転の第2段階に当たる40%出力確認試験への大きな障害は取り払われた形だ。ただ、東京電力福島第1原発事故により、原発の安全性や核燃料サイクルの意義が問われていて、もんじゅの先行きにはなお不透明感が漂っている。

 1995年12月のナトリウム漏れ事故で運転を停止したもんじゅは、昨年5月に念願の運転再開にこぎつけた。ところが、試運転の第1段階となる炉心確認試験は終了したものの、次のステップに向けた燃料交換後の後片付け中の8月、炉内中継装置が落下した。

 回収完了を受け日本原子力研究開発機構の森将臣広報課長は「ちゃんと上がると思っていたが、よかった」と安堵(あんど)した。ただ「福島の対応をしっかりしていく。40%試験より優先だ」とすぐに厳しい表情に変わった。

 福島第1原発事故を受け、もんじゅでも深刻な事故が起きた場合の対策が問われている。冷却材にナトリウムを使うもんじゅは冷却の仕組みが軽水炉と異なるが、安全上の課題を検証する委員会では設計を超える危機を想定して対応すべきだとの指摘も出ている。原子力機構が目指す年度内の40%出力試験は困難との見方も強い。また、海江田万里経済産業相は、もんじゅは再稼働を求める原発の対象外とも発言している。

 設備面でも課題は多い。引き抜いた同装置は変形などで再使用できず、製造している新装置の完成は12年度中。「すべての装置がそろっていないのに、起動は難しい」と指摘する関係者もいる。

 敦賀市の本多恒夫原子力安全対策課長は「正常な状態に戻る一歩としてはよかった」と評価する一方、40%出力試験の遅れは現実的とみる。

 本多課長は、核燃料サイクルの要とされるもんじゅの意義と使命は変わっていないと強調したが、政府がエネルギー政策の在り方を見直す可能性がある中、研究炉のもんじゅに注がれる視線はさらに厳しい。