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2011/05/17

ある法務省幹部は今回の人事について「警察との関係を構築し直すため、という意味合いも含めている」と説明。

福島地検検事正更迭、震災後の容疑者釈放問題に

 法務省は、中村明福島地検検事正を16日付で交代させる人事を発表した。

 東日本大震災後、同地検が勾留中の容疑者を処分保留で釈放したことが問題となっており、事実上の更迭とみられる。中村氏は最高検検事に転出し、後任には飯倉立也鹿児島地検検事正が就く。

 福島、仙台両地検は「容疑者の身体の安全確保、被害者や参考人を呼び出しての事情聴取が困難な状況になった」(福島地検)などとし、震災当日の3月11日から16日にかけ、警察の施設に勾留中だった容疑者ら計58人(福島31人、仙台27人)を相次いで釈放した。

 しかし、その後、福島地検が釈放した女がコンビニ事務所に侵入し、建造物侵入容疑で現行犯逮捕された。また、福島地検は仙台高検に「軽微な事件の容疑者を釈放した」などと報告していたが、実際には、覚醒剤取締法違反容疑の暴力団組員や強制わいせつ容疑の男が含まれていた。

(2011年5月16日05時01分 読売新聞)



震災釈放後も「覚せい剤使用」
 東日本大震災直後に福島地検が勾留中の容疑者31人を釈放した問題で、地検いわき支部は17日までに、うち3人を覚せい剤取締法違反(所持、使用)の罪で起訴した。これで31人全員の処分が決まった。今回、1人は釈放後に覚せい剤を使用していた、としている。ほかの2人は「逃走などを抑止するのが困難」として地検が再逮捕していた。

 福島地検の小池隆次席検事は「釈放した容疑者が再犯に及んだことで、福島県民に不安を与えたと受け止めており、申し訳なく思っている」と述べる一方で「(当時の)釈放は適正に判断されたものと理解している」と釈明した。

 地検によると、無職松本勝二被告(47=福島県いわき市)は釈放後の4月11日、釈放前の容疑と異なり、女性に覚せい剤の水溶液を注射した疑いで県警が逮捕。取り調べで、同10日ごろにも本人使用が判明した、としている。

 当時の中村明検事正を16日付で最高検検事に異動させた人事について、江田五月法相は17日の閣議後会見で「事実上の更迭と報道されたが、そうした見方もあるかと思う」との認識を示し「人心一新をしておこうと異動を行った」とも述べた。(共同)

 [2011年5月17日22時45分]






福島地検、釈放問題でトップ更迭 警察との関係悪化を異例人事で収拾
2011.5.16 20:30

 福島地検が東日本大震災後に勾留中の容疑者らを釈放した問題で、法務省は16日、同地検の中村明検事正を最高検検事に異動させ、事実上の更迭とみられる異例の人事を発令した。法務・検察当局は、地域住民に不安を与えたことや、一次的な捜査を行う警察との連携不足が露呈した今回の対応を問題視。地検トップを刷新することで事態収拾を図りたい考えだが、信頼回復には時間がかかりそうだ。

■「言語道断」

 福島地検は震災当日の3月11日から16日にかけて、本庁、いわき支部、郡山支部合わせて計31人を釈放。このほか、仙台地検も本庁と4支部で計27人を釈放し、3被告の勾留を取り消した。

 報道で釈放の事実が明らかになったのは3月末。両地検は「容疑者の身柄の安全確保と、被害者や参考人を呼び出して事情を聴くことが困難になった」「すべて軽微な犯罪で治安に影響はない」などと説明したが、福島地検の対応だけが問題となった。

 理由は警察との連携不足にある。いわき支部は、警察署と十分な協議をせずに「釈放指揮書」を送っていたことが判明。また、同支部が被災直後ではなく、福島第1原発2号機の圧力抑制室が爆発した3月15日から釈放手続きを始め、庁舎を一時閉鎖していたことも発覚。こうした対応を、福島県警関係者から「言語道断」などと強く批判され、事態を大きくする結果を招いた。


■当初の報告と違い…

 一方、検察内部では当初、「予測できない震災でやむを得ない措置だった」とする意見も少なくなかった。だが、「軽微な犯罪」とした福島地検の報告が、事実とは異なることが明らかになると、対応を疑問視する声が広がっていった。

 とりわけ、地検が釈放した強制わいせつ事件の容疑者は、知人の女子大生のアパートに侵入し、手錠をかけて犯行に及んでいたことが判明。ある最高検幹部は「当初はこうした報告は受けていなかった。決して軽微とはいえない。こんな事件ならば釈放はしないだろうと漫然としてしまい、最高検も対応が遅れてしまった」と反省点を挙げた。

 また、4月2日には、福島地検が釈放した窃盗事件の容疑者が建造物侵入の現行犯で再び逮捕され、実際に治安に影響を与える事態ともなった。

■法相「住民に不安」

 江田五月法相は釈放をめぐる一連の対応を問題視しており、岩村修二仙台高検検事長が9日に、中村氏に口頭で再発防止を指導。また、江田法相も13日の閣議後の会見で「関係各官庁との調整も十分にできておらず、住民にも不安を与えた」と地検の対応を批判した。

 法務省は通常、検事正の人事を退職者の発生に伴い行うが、今回は異例のタイミングでの発令となった。

 ある法務省幹部は今回の人事について「更迭ではないが、釈放の問題と全く関係ないとはいえない」とした上で、「警察との関係を構築し直すため、という意味合いも含めている」と説明。また、別の幹部は「福島地検の職員の求心力を失い、円滑な業務遂行に支障が出てきた」と指摘した。