3月17日(ブルームバーグ):外国政府は日本に滞在する自国民に対し、安全についての警告を強化した。東日本大震災で被災した福島の原子力発電所の状況が悪化していることが理由。
米国務省は米国民に対し、出国を検討することと福島第一原子力発電所の周囲80キロから離れることを勧告した。英政府は東京を離れるよう勧告した。枝野幸男官房長官は冷静な対応を呼び掛けた。
米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長は16日の議会証言で、福島第一原発について、「放射線量は極めて高く、是正措置を講ずる能力に影響を及ぼしている恐れがある」と語った。
米国務省は17日、「国務省は米国民に現時点での日本への渡航を延期すること、日本に滞在中の米国民には出国を検討することを強く勧告する」との声明を出した。日本に駐在する米軍関係者の家族の出国も許可したという。
ケネディー国務次官は16日遅くに米国で、「放射性物質の漏れが続く、あるいは増加する可能性を排除できないことから、日本に滞在中の米国民には危険な接触の可能性を避けるため慎重な対応を勧告する」と述べた。
フランスとベルギー、ノルウェーは自国民に日本出国を勧告している。フランスとロシア、ベルギー、スリランカ、中国の政府と航空会社は出国を望む自国民のために航空機を準備した。
新華社通信によれば、中国は15日以来、地震の被害の大きかった4県から自国民を新潟と東京に移している。また、11-16日の間に4000人以上の中国国民が日本から大連に到着したという。
オーストラリア政府は17日、福島原発から80キロの域内から離れるよう国民に勧告した。外務省のウェブサイトによると、16日には東京や地震の被災地付近への渡航を見合わせることも勧めた。
更新日時: 2011/03/17 16:35 JST
東日本大震災:福島原発事故、各国警戒 退避勧告も続々
東京電力福島第1原発を巡る事態の深刻化に世界各国が警戒を強めている。米国が同原発の半径約80キロ以内に住む米国人に避難を勧告したのに続き、韓国、オーストラリアも同様の措置を取った。日本から国外に退避の動きも出たほか、日本からの入国者に放射能汚染の検査を実施する国も出てきた。米国やロシアでは放射線被害を減少させるヨウ素剤を買い求める人も現れ、世界各地に不安が広がっている。
◇24時間体制で放射線量監視
■ロシア極東
福島の北西約800キロのウラジオストクでは、当局が24時間体制で放射線量を監視しデータをテレビや非常事態省のサイトで公開している。また極東ロシア軍は深刻な事態を想定し、サハリン州や北方領土を含むクリル諸島(千島列島)の住民をロシア本土に避難させる準備を進めている。
また、ウラジオストクでは放射線測定器や、被ばくによる健康被害を抑えるヨウ素剤の売り上げが急増。86年のチェルノブイリ原発事故後にロシアの学者によって開発されたヨウ素成分入りのパンも売れているという。今のところロシア極東での放射線量に異常は観測されていない。【モスクワ田中洋之】
◇日本政府の発表努力を信じ対応
■韓国
韓国外交通商省は17日、福島第1原発から半径80キロ以内に居住する韓国人に対し、避難または屋内に退避するよう勧告した。金星煥(キムソンファン)外交通商相は会見で「(米国や英国の措置を)準用する」と述べ、「基本的に日本政府の発表と努力を信じ、これを基に対応する」とも語った。
一方、韓国政府は同日、日本路線のあるソウル近郊の仁川空港、金浦空港に乗客の放射能汚染を調べる装置を設置した。しかし、聯合ニュースによると、同じく日本路線がある釜山近郊の金海空港や、済州島の済州空港には機器などが足りず設置されなかった。【ソウル西脇真一】
■米国
米国務省は16日、東京の米大使館や名古屋の総領事館、横浜の語学研修所の計3施設について職員家族約600人の自主的国外退避を認めたと発表した。また自国人に対し日本への渡航延期を求めるとともに、日本からの退避も検討するよう呼びかけた。在日米大使館はすでに、福島第1原発から約80キロ以内に居住する米国人に圏外避難を求めている。
ホワイトハウスによると、オバマ大統領は同日、菅直人首相に電話で「可能な限りすべての支援」の意思を改めて伝える一方で、日本にいる米国人の安全確保の措置を説明した。
一方、米紙ロサンゼルス・タイムズ(電子版)は福島第1原発から漏れた放射性物質が、早ければ18日(日本時間19日ごろ)にも米西海岸に到達すると報じた。極めて低レベルで健康への影響はないという。日本から米西海岸カリフォルニア州までは約8000キロ。【ワシントン草野和彦、ロサンゼルス吉富裕倫】
◇早期帰郷希望者にチケット代行予約
■台湾
台湾の馬英九政権は17日、日本にいる台湾人で早期の帰郷を希望する人に代わって、東京の台北駐日経済文化代表処が航空チケットの予約をする措置を始めた。航空会社への電話が通じにくく、チケット予約が困難なため。馬政権は日本からの退避命令を出していないが、立法委員(国会議員)から「対応が遅すぎる」「政府専用機で退避させるべきだ」との批判が出ていた。
馬総統は現在、福島第1原発の事態に対応するため毎朝、安全保障政策を決定する総統府直属の国家安全会議を開いている。
■豪州
オーストラリア放射線防護・原子力安全庁は17日、福島第1原発の半径80キロ圏内に滞在中の同国人に退避を勧告した。地元有力紙「オーストラリアン」(電子版)が伝えた。
同庁は「原発は不安定な状態で、何が起こるか予測できない」と指摘。半径80キロ圏外の地域でも「少なくとも今後48時間は放射線被ばくの恐れがある」として警戒を呼びかけた。同国政府は東京に住む同国人に対し、やむを得ない場合を除き、東京を離れるよう呼びかけている。【ジャカルタ佐藤賢二郎】
◇チャーター便、香港まで手配
■英国
英政府は16日、東京とそれ以北に住む英国人に対し、域外への避難を検討するよう勧告した。また、緊急性のない同地域への訪問を控えることも勧告。定期便で国外退避できない英国人のために、東京から香港までチャーター便を手配する。英外務省は勧告の理由として原発事故の事態悪化のほか、「日用品の供給や交通、通信などの混乱の可能性」をあげている。【ロンドン笠原敏彦】
■タイ
タイのカシット外相は17日、日本国内の「危険地域」に滞在するタイ人について「必要なら、航空機と船舶で韓国、中国などに退避させる」と語った。
日本には4万2686人のタイ人がおり、ほぼ半数が震災や原発事故の影響地域に滞在している。東京にあるタイ大使館は、すでに館員の家族を東京から退避させた。
一方、タイ保健省は17日、バンコクと南部プーケットから日本へ向かう航空機の旅客にヨウ素剤の配布を開始した。タイでは日本への観光旅行がブームとなっていたが、タイ観光業協会によると5月までの団体ツアーはほぼ100%キャンセルされたという。【バンコク西尾英之】
■EU
欧州連合(EU)の行政府・欧州委員会は16日、日本からの輸入食品に対する放射能検査の実施を加盟国に勧告した。また、エッティンガー欧州委員(エネルギー担当)は福島第1原発について「制御不能に陥っている」と発言した。
検査は15日以降に輸入された食品と家畜飼料が対象。欧州委員会によると、EU加盟国は昨年、日本から約6500万ユーロ(約73億円)の果物、野菜などを輸入している。
一方、エッティンガー委員は16日、欧州議会で「今後、さらなる惨事が起き、人命が脅かされる可能性もある」と指摘、「これまで日本の技術能力と信頼性を極めて高く評価していたが、認識を見直す必要があるかもしれない」と述べた。
共同通信によると、国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は「この時期に『制御不能』などと言うべきではない」と苦言を呈した。【ブリュッセル福島良典】