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2011/01/25

チュニジアで、治安体制の再確立のキーを握るのは「ツイッター」ではなく軍や警察その他、もっとリアルな武力に焦点があるのは明らかでしょう。

「ジャスミン革命」は「ツイッター革命」か?


 この原稿を書いている1月19日/校正している22日の時点では、いまだ分からないことも多いのですが、1つ確実にいえるのは「これは『ツイッター革命』だ」とか「新たな『ソーシャルネットワーク革命』の始まりだ」的な物言い、これは慎重にしたほうが良いということです。

 また民衆が立ち上がり、それによって政権が交代したという表現も注意したほうがよいと思います。

 確かに今回、民衆暴動を主要な動きとして、逆に言えば内戦のような混乱を経ずに前政権が崩壊したのは、長期に渡って独裁体制を敷く中東やアフリカの国家では珍しいケースだと言えるでしょう。民衆は自分たちの行動に一定の自信を持ってよいと思います。

 ベン=アリーが最終的に国外逃亡しかないと判断したのは軍の離反、それとフランスやアメリカなど大国の姿勢を見ての判断であって、決して民衆暴動だけで政権が倒れたわけではない。

 これ以上、国内を治められない人形の首なら要らないよ、という列強の怖い圧力があり、さらには手兵だったはずの軍にも見切りをつけられてのベン=アリー前大統領の亡命です。

 実際、軍の中には現在もベン=アリーに忠誠を誓う部隊があって、軍と警察とが複雑に入り乱れて市街戦になってもいるらしい。

 ツイッターやフェイスブックの力で民衆が立ち上がり、それで政権が転覆した、というストーリーは劇的ではありますが、2010年12月17日から2011年1月14日まで29日間に起きた出来事を理解する上で、そこに力が入りすぎると、事の本質を見失うと思います。

 何より、現在まだ状況が流動的なさなかにあるチュニジアで、治安体制の再確立のキーを握るのは「ツイッター」ではなく軍や警察その他、もっとリアルな武力に焦点があるのは明らかでしょう。アフリカの問題は常にユーロとドルの綱引きも背景に見なければ、わけが分からないことになります。 またイランは早々に「チュニジアのイスラム国家化を望む」と声明を出し、高位のイスラム指導者が使命を帯びてチュニジアに派遣され始めたような話も聞きました。まさにリアルな力と力の応酬です。

 ここまで先に押さえた上でですが、しかし今回の政変がかくも短期間に、ここまでの高まりを見せたことに、フェイスブックやツイッターなどソーシャル・ネットワークメディアが役割を果たしたことは間違いありません。

 ちょうどフェイスブックの創設者マーク・ザッカーバーグを主人公とする映画『ソーシャル・ネットワーク』が封切られ、ザッカーバーグの評伝The Facebook Effect(邦訳「フェイスブック 若き天才の野望」(日経BP社)もヒットしています。(関連記事『「500億ドルの男」の素顔』)

 しかし今回のチュニジア動乱は長年の社会的不満が爆発して暴動が起き、様々な力学背景から情勢を観測した列強や軍の動きや判断があって短期間に政権が崩壊したというもので、ネットメディアは携帯電話の延長で連絡網の役割を果たしたに過ぎません。

 本当の意味で「ソーシャルメディア」が革命を起こすとすれば、民衆の意識をメディア自身が底から改革して社会がダイナミックに変化するような状況になって、初めてそのように呼ばれるべきものであって、今回の政変を一連の「色の革命」(ウクライナの「オレンジ革命」などが知られる)の延長のような名で呼ぶのはレバノン民衆がシリア軍を撤退させた抗議行動「杉の革命」と同様、運動に勢いをつけて評価したいニックネームの1つくらいに見ておくほうが、現時点では無難だと私は思います。

 本当の意味での力の駆け引きは、今現在が一番、水面下でも見える所でも、佳境に入り始めたところではないでしょうか?

 もし本当にソーシャルメディアによる「意識革命」を考えるのなら、むしろ私たちの国、日本の国内を考えるほうが遥かに重要だと言わざるを得ません。

 鳩山さんのツイッター利用が1つのきっかけとなり、私も「常識の源流探訪」で「公共圏」の観点からツイッターに言及し始めました(当初はずいぶん面白いご批判もいただきましたが今は昔。しかしそれからまだようやく1年経つかどうかです)が、2011年が明けてみると社員のツイッター利用に制限をというような話も耳にします。

 人のふり見て我がふり直せ、などとも言いますが、今回のチュニジアの問題。現在の日本が学ぶことができるポイント、かなりたくさんあるような気がするのですが、いかが思われますでしょうか?

2011年1月25日(火)

ツイッターで政権崩壊する日
チュニジア政変と「ソーシャル・ネットワーク」
伊東 乾 【プロフィール】
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110121/218075/?P=3