菅前首相インタビュー要旨
菅直人前首相のインタビュー要旨は次の通り。
-東日本大震災から間もなく1年を迎える。
地震と津波による大きな被害があり、東京電力福島第1原発事故が起き、国民の皆さんが大変厳しい状況に遭遇した。当時の政治の責任者として大変申し訳なく思う。国民が我慢強く対応し、復興に向けて頑張っていることに感謝したい。
原発事故は事前の備えがあまりにも不十分だった。それがあれば、もっと事故も放射線被害も大きくならずに済んだと思うだけに責任を感じる。準備が十分できていなかったという意味では人災と言わざるを得ない。大きな反省が本当に必要だ。備えがなかったという意味で(政府の対応は)大失敗だった。
-首相官邸の初動には厳しい評価があるが。
地震発生直後、北沢俊美防衛相(当時)に「とにかく救命活動に即座に入ってほしい」と自衛隊の派遣を指示し、10万人態勢を取ってもらった。自衛隊の初動は非常に迅速だった。消防、警察も頑張ってくれた。
原発事故は、地震、津波とはかなり性格を異にしている。原子炉の中で何が起きているのか分かり、予測ができて初めて次の対策が可能だ。しかし、事態の把握に努めようと、東電、経済産業省原子力安全・保安院、原子力安全委員会の責任者にそれぞれ(官邸に)来てもらったが、残念ながら、どういう状況にあるのか、少なくとも私に報告が上がってこない。
(震災翌日の)12日朝、現地に(視察に)行った。私としては黙って見ているときではなく、現場で実際に対応している(福島第1原発)所長に、きちんと話を聞かないといけないと思った。
-政府は阪神大震災などを教訓に官邸の危機管理態勢を強化した。機能しなかったのか。
(評価は)政府の事故調査・検証委員会などの検証を基本的には待つべきだ。しかし、どの仕組みがどうだったというよりも、ほとんど機能しなかった。
地震、津波に関しては、ある程度やれたと思う。原発に関しては、極めて不十分だった。つまり、東電から上がってくる情報そのものが極めて不十分だった。(原因は)どうしても全部「3・11」前になる。つまりは(原発の)全電源喪失を一切想定しなかったからだ。危機管理が残念ながら結果としてうまくいかなかった。最大の問題は備えがないことだった。
-首相が前面に出ることに批判もあった。
首相が陣頭指揮を執るのは例外だ。今回は一般的には多分、例外になるから、やらざるを得なかった。つまりは、野党も国会で「将たる者はあそこ(官邸執務室)に座るべきだ」と言っていたが、黙って座っていても何にも情報が来ない。陣頭指揮が一般的にいいのか悪いのかではなく、私は必要だと思ってやった。
-政府の震災関連会議の議事録が未作成だったことをどう思うか。
もちろん知らなかった。議事録がないこと自体は恥ずかしい限りだ。しかし、議事録の有無の問題と、情報開示の問題は若干違う。会議はほとんどの場合、冒頭にテレビカメラが入り、決定したことは直後に官房長官が発表した。
-原発事故が深刻になった場合を想定した「最悪シナリオ」が昨年3月25日作成されたが、公表されなかった。
セカンドオピニオンというのか、現場に直接携わっていなくても原子力に詳しい人たちの意見も聞いておくことが必要だと判断した。最悪の状態が重なったときにどういう状況が起き得るのか、私自身の参考にしたいと思った。
〔略歴〕
菅 直人氏(かん・なおと)東工大理卒。厚生相、副総理兼国家戦略担当相、財務相などを経て10年6月から11年9月まで首相。衆院東京18区、当選10回。65歳(民主)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201202/2012022800646