2011年 03月 18日 10:45 JST
[東京 18日 ロイター] 野田佳彦財務相は18日、午前7時から行われた7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議の電話会談後に会見し、為替市場安定に向け、G7各国が協調介入に参加することで合意し、政府・日銀はG7合意に沿って午前9時から外国為替市場でドル買い/円売り介入を実施することを明らかにした。識者の見方は以下の通り。
●債券市場は安定推移保っている
<東海東京証券 チーフ債券ストラテジスト 佐野一彦氏>
野田佳彦財務相が18日、為替介入に踏み切ったことを明らかにしたが、債券市場ではすでに織り込んでいたため、国債先物相場は比較的、安定した値動きにとどまっている。金融機関を中心に懸念されているのは、株価急落に伴う益出し売却の可能性だ。震災に起因する保有株式の損失は、穴埋めしなくても株主への説明が十分可能だろう。そのため、拙速な動きは想定し難い。
もっとも、様々な状況が落ち着いた上で現在の利回り水準にとどまっているなら、来期初の益固めは想定する必要がある。海外勢については、震災および原発問題が「質への逃避」に拍車をかけていようが、当面、中長期債の売りは短期債の買いという入れ替えにとどまる公算が大きい。ただ、彼らの不安は我々の想像を上回り、円からの逃避というシナリオも浮上しやすいだろう。
●ドル/円で80円が防衛線
<日興コーディアル証券 チーフストラテジスト 末澤豪謙氏>
電話会談ですぐに協調介入に踏み切ったことには、やや意外感はある。震災による混乱を受け「連帯して市場安定に向け協調する」という背景があるようだ。単独の介入ではなく、協調介入ということで、為替相場のドル/円で80円が防衛線になるだろう。市場の反応について、日経平均株価は、きょうのところは反発、金利は上昇が想定される。今後の株価動向は原発問題の収束、本格的な復興計画の策定が前提となろう。
●これで投機筋の息の根止まる
<みずほ証券 為替アナリスト 鈴木健吾氏>
1995年のときも「秩序ある反転」声明と協調介入で相場は反転した。過去を見ても、介入で流れが変わることが多かった。これで投機筋の息の根は止まるだろう。日本の単独介入だったらここまで上昇しないし、再び80円を割ってしまっていたと思う。FRB(米連邦準備理事会)にECB(欧州中央銀行)、カナダ中銀も参加するということで、このメンバーに喧嘩をしかける投機筋はいない。日銀の2発目の介入も予想されるし、今夜にはECBとFRBが介入するだろう。投機筋はもうロングで仕掛けてきていると思う。
●協調介入、深刻な日本の事態への結束示す
<GFT(ニューヨーク)の通貨調査担当ディレクター、キャシー・リエン氏>
2000年以来の協調介入で大きな共鳴効果があるだろう。協調介入だけが実際の効果があり、日本の事態の深刻さの面で中銀の結束を示している。
協調介入のため、ドル/円やクロス円が基本的に底入れするのは間違いない。
●来週も断続的介入の可能性で効果持続、日本企業にはまだ厳しい水準
<RBS証券 チーフエコノミスト 西岡純子氏>
大震災による経済インフラの棄損に加えて円高による国内生産へのダメージに対し、全面協調で対応しようとの姿勢だ。昨年の介入では瞬時に効果が消えてしまったが、今回は協調体制であり、来週以降も断続的に介入が続く可能性もあり、効果は続くだろう。80円が一つの節目として意識され、70円台に戻りにくくなると思われる。
米国からすると、これまではドル安がディスインフレ状況にとっては好ましかったが、日本の状況からみて経済的影響もさることながら、金融市場のチャネルを通じて、日本の株価など資産価格の下落によりたとえば米国債の換金売りなどのおそれもあるため、これ以上の円高は望ましくないとの判断があったのだろう。
もっとも日本企業の採算レートや震災による収益悪化を考えると、この水準でもまだ厳しいくらいだ。
●協調介入はポジティブサプライズ、断続的に実施へ
<野村総研 金融市場研究室主席研究員 井上哲也氏>
協調介入は市場にポジティブサプライズだったとみている。米年金筋による日本株買いなどのフローも観測されており、その点からみても介入は必要なアクションだったと思う。外為市場でドル/円は介入を受け81円台に上昇した後、いったん80円後半に押し戻されたが、とりあえず、急激に進んだ円高を止めたことに意義がある。介入は1回限りで終わるのではなく、市場に警戒感をもたせるため、目先は断続的に実施されるとみている。
●各国当局の「本気度」が試される展開に
<インベストラスト 代表取締役 福永 博之氏>
当局の動きが速かったことに加え、各国と協調しての介入であり、当面の効果は期待できる。株価にもプラスだろう。ただ民間のドル買いを誘発するまでには至っていないとみられ、円高トレンドを変えることができるかはまだ不明だ。投機筋はこれから各国当局の「本気度」を試しに来るだろう。継続的に介入し、規模もやりすぎではないかと思うわせるほどの量が必要だ。トレンドを変えることができず円高が再び進行すれば、それまで以上の円高水準まで進む可能性がある。
●各国の協調がサプライズ、日経平均は1万円目指す
<UBS証券 チーフストラテジスト 平川昇二氏>
G7に関する報道が事前にあったことから、為替介入についてはある程度想定していたが、米・カナダ・欧州中央銀行(ECB)が協調して介入を実施すると表明したことはサプライズだ。日本株にも当然ポジティブに働くとみている。
福島原発事故など不透明要因に左右され、日本株はしばらくボラタイルな値動きが続くだろうが、時間の経過とともに戻り基調を強めるだろう。東日本大震災からの復興が進むにつれ、市場も通常状態に戻ってくるとみている。3月末には日経平均の1万円回復が期待される。
●協調介入の意義大きい、クレジットのワイド化に歯止め
<新生証券 債券調査部シニアアナリスト 松本康宏氏>
7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で米国、カナダ、欧州中央銀行(ECB)から協調介入参加の承認を得たことの意義は大きい。円高が阻止されれば、輸出企業はある程度の利益を出せる。1ドル=80円台に戻せば、企業収益に大きな影響は出ないとみている。クレジットのワイド化に歯止めがかかる可能性が高い。
ただ、日本当局の対応が遅すぎたとの印象を残した。マーケットは80円割れの段階で、何らかの対応があると思っていたが、肩透かしを食らった格好だ。円が対ドルでこれまでの最高値をあっさり突き抜けて一気に76円水準まで進んでしまった。今後、投機筋が対応の遅さを突いて、円買いを仕掛けてくる可能性は否定できない。
●介入出尽くし感なくしたところを評価
<みずほインベスターズ証券 チーフマーケットエコノミスト 落合昂二氏>
市場の予想は介入はあると思っていたが、その予想は日本の単独介入を黙認するというものだった。結果は協調介入だったので、マーケットでは期待が上振れている。どのくらいの規模の介入かわからないが、比較的大きなものと思われる。
G7各国は自国のマーケットで介入できるため、今回の介入で終わりではなく、欧州の取引時間には欧州中銀(ECB)、ニューヨーク取引時間には米国やカナダが介入することで、介入の出尽くし感が出ないようにしたところが評価できる。円安への流れにするための効果があった。株式市場を心理的に明るくさせた面もある。
円債相場に関しては円高に振れていたときも、それほど反応していないので、今回の局面でも市場参加者はポジションをあまり動かさないとみている。
●介入は事態を落ち着かせるための措置
<バークレイズ・キャピタルの通貨ストラテジスト、デービッド・フォレスター氏>
協調介入、タイミング、通貨横断的という点で効果的だ。しかし介入規模を欠いており、市場も一定程度予期していた。このためポジションはやや軽くなっていた。
ドル/円は、14日に割り込んだ81.50/50円を上抜けない限り、79―80円のレンジにとどまる見通しだ。ドル/円はかなりの急落を示しており、過去の例からみて介入は転換させるというよりも事態を落ち着かせるよう策定されてきた。
●日銀の金融緩和拡大の可能性示唆
<HSBCアジア経済調査共同責任者 フレデリック・ニューマン氏>
大きなサプライズだ。G7中央銀行による協調介入で、円は抑え込まれるだろう。これはまた、日銀がリスク資産の買い入れ拡大など、金融緩和プログラムを一段と強化する可能性があることも、示唆している。
介入を実際に実施する前に(介入すると)発表することは、協調介入の場合は通常の順序だ。このほうが相場への影響が、より大きくなる。
単独での介入では、市場はその有効性に疑問を持つかもしれないが、複数の中央銀行が協調して介入する場合には効果に疑問の余地はない。
しかし、本当に注目すべき点は必ずしも協調介入ではなく、日銀が復興債の買い入れなど資産購入を拡大する可能性があることを示唆していることだ。日銀が資産買い入れを不胎化するのかどうかは、今のところではまだ不明だが、日銀は徐々に、量的緩和に乗り出しているようだ。
●協調行動は大きな意味
<ウェルズ・ファーゴの為替ストラテジスト VASSILI SEREBRIAKOV氏>
主要7カ国(G7)が為替に関して協調行動をとったのは過去10年で初めてのことで、明らかに非常に大きな意味がある。
市場では口先介入か、日本による単独介入が予想されていたため、予想外の結果だ。最近のG7会合を基準に考えれば、協調行動は非常に大きな出来事だ。
日本が介入したという話はすでに聞いていたが、他の中央銀行も後に続くだろう。
ドル/円は大幅に動いているが、政策の大きさからすればそれほどでもない。そのため、短期的にはさらに円が下落する見通しだ。
●介入の初期効果が表れる、日本初の金融市場不安定化を阻止
<東海東京証券 チーフエコノミスト 斎藤 満氏>
主要7カ国(G7)会議で、日本初の経済・金融のメルトダウンの波及を阻止する姿勢を示したことは、評価できる。ドル/円相場も81円台まで反発したことで、初期の目的は達成したと言えるだろう。
原発問題については、日本だけでなく、欧米も原発のリスクを抱えており、危機意識を共有しやすい前提がある。このため、通貨市場での協調行動についても合意が成立しやすい環境だった。
ドル80円前後の水準は、必ずしも日本経済に大きなダメージを与えるレベルではない。この水準を維持できれば、追加的な介入は必要ないだろう。
今後については、福島原発問題が最悪期を脱するメドが立てば、金融市場も落ち着きを取り戻すだろう。
●介入の効果は3月末まで、その後は米景気次第
<アムンディアセットマネジメント チーフエコノミスト 吉野晶雄氏>
為替の過度な変動や無秩序な動きに対応するというG20で決まった枠組みの中で、G7が協調して迅速な初動をみせたことは評価できる。しかし、原発事故が終息に向かわなければ、海外からの日本に対する猜疑心や警戒感が残り、リスク回避のドル安/円高への圧力が続く。原油高、株安によって米景気見通しがやや弱気に傾きつつある中で、今後発表されるISM製造業景気指数や米雇用統計などの内容が悪ければ、ファンダメンタルズを背景とするドル安/円高が起こる。投機的な動きでなければ介入もできない。介入の効果は3月末までで、その後は米景気次第だろう。