公安出身者を副市長に選出 中国重慶市 解任の王立軍氏の後任
2012.3.23 14:47 [中国]中国重慶市人民代表大会(議会)の常務委員会会議は23日、公安省で長年捜査官を務めた元青海省副省長の何挺氏を重慶市副市長兼公安局長に選任した。地元メディアが伝えた。
米総領事館への駆け込み事件で重慶市副市長を解任された王立軍氏の後任の形。重慶市トップを解任された薄煕来氏と王氏が主導した暴力団一掃に対し、法律無視の行き過ぎた捜査が横行していたとの批判が強まる中、重慶市の公安部門を刷新する狙いがある。
何氏は、公安省では刑事捜査局長などを歴任。2007年から甘粛省公安庁長などを務め、09年からは青海省副省長と同省公安庁長を兼任していた。(共同)
木語:権力闘争、逆さ読み=金子秀敏
毎日新聞 2012年03月22日 東京朝刊<moku−go>
中国共産党の権力闘争が表に出てきた。名門2世、太子党派の星で、江沢民前国家主席が支持していると見られていた薄熙来・重慶市党委書記が突然、解任された。
江氏と対立する胡錦濤国家主席の率いる共産主義青年団(共青団)派が、秋の党大会をにらんで攻勢をかけたという解説が多い。だが、なんだかようすが変だ。
中国の権力闘争とは党政治局内のポストの奪い合いだ。だから薄氏の失脚によって、だれがどのようなポストについたか見れば抗争の正体がわかるのではないか。
薄氏が失脚するまでのドラマは謎に満ちている。だが、事件の結果は意外に単純だ。
薄氏に代わって重慶市の書記になったのは江沢民派の幹部、張徳江・工業担当副首相だが、兼務である。北京で副首相をしながら重慶で書記は無理だから暫定措置だ。重慶市書記のイスをとにかく江派が押さえて共青団派に渡さなかった。
薄氏は、習近平政権で政治局常務委員会入りし、党中央政法委員会の書記になろうとしていたようだ。政法委書記は、検察、警察、特務機関、武装警察から海監船まで、中国の「国家権力」の実権を握る実力者だ。マックス・ウェーバーのいう国家の「暴力装置」とは、中国では党中央軍事委員会と中央政法委員会だ。政法委を握った派閥が強くなる。いまの周永康政法委書記は江派の大幹部だ。
張氏が重慶市書記兼務になったのは、江派が薄氏の代わりに張氏を次期政法委書記に推していることを意味するのではないか。張氏は父親が毛沢東時代に抗日戦争に参加した砲兵少将で、その縁故で江氏に引き立てられた。習近平副主席も薄氏も張氏も太子党だ。
重慶市には新しい副市長も送り込まれた。何挺・青海省副省長である。政法委書記の周氏が公安相当時、公安省の反テロ局長、刑事捜査局長に起用した江派のエリート警察官僚だ。
薄氏の失脚は、暴力団取り締まりをめぐる市公安局内部の混乱が一因だった。副市長は市公安局の再建という任務を課せられているのだろう。副市長を支える副秘書長も代わった。江派も江派、江氏のおいだという。
共青団派は市公安局長ポストをとった。胡主席の直系の李克強副首相が共青団時代に、李氏の秘書だった人物だ。しかし警察関係の行政経験はない。実権は何副市長が握る。ポスト薄の重慶市を制したのは、共青団派ではなく江派だ。
薄氏失脚劇を逆回しで再生してみると、江派のなかの争いが見える。(専門編集委員)