12月5日(ブルームバーグ):米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は5日、債務危機でユーロ圏15カ国の格付けを引き下げ方向で見直し、ドイツとフランスも「AAA」格付けを失う可能性があると発表した。
同社はドイツとフランス、オランダ、オーストリア、フィンランド、ルクセンブルクの「AAA」格付けの6カ国も、「クレジットウオッチネガティブ」にするとし、欧州連合(EU)首脳会議の結果次第では格下げする可能性があると説明した。これに先立ち、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が、S&Pは6カ国を格下げ方向で検討対象にすると報じたことから、ユーロは反落、米国債相場は上昇していた。
S&Pは発表文で、「ユーロ圏のシステミックなストレスはここ数週間で高まり、ユーロ圏全加盟国の格付けの見直しが妥当な水準に達した」と説明した。
同社によると、オーストリアとベルギー、フィンランド、ドイツ、オランダ、ルクセンブルクの格付けは1段階、その他の国は最大2段階引き下げる可能性がある。同社はキプロスについてはクレジットウオッチネガティブを維持した一方、ギリシャはクレジットウオッチに指定していない。
独仏首脳
ドイツのメルケル首相とフランスのサルコジ大統領は5日、債務危機解決の第一歩として経済協力を強化する方向でのEU条約変更を呼び掛けた。ユーロの運命が危険にさらされるなかで、独仏首脳は8-9日にブリュッセルで開かれるEU首脳会議での共通の土台を提示した。
ブッシュ前政権で米財務次官補を務めたフィリップ・スウェーゲル氏は「S&Pの動きはユーロ圏諸国が危機対応で断固たる行動を取る必要があり、そうしなければ問題はギリシャなど財政問題が最も深刻な国から他のユーロ圏諸国に拡大することを示すもう一つのシグナルだ」と指摘。現在はメリーランド大学教授(経済学)を務める同氏は「ドイツとフランスが行動すべき時だ。ギリシャなどの国を救うか、それらの国の破綻を認めるかのいずれかだ」と語った。
独仏両国は共同声明で、S&Pによる動きを「認識している」とした上で、両国が「5日公表した共同提案が財政・経済政策の協調を強化し、安定と競争力、成長を促進すると確信する」と強調した。
ドイツやフランスが格下げとなれば、ユーロ圏の救済基金である欧州金融安定ファシリティー(EFSF)の格付けにも影響しかねない。EFSF債の金利が高くなれば、同基金は高債務国にさほど多くの資金を提供できなくなる恐れがある。
更新日時: 2011/12/06 08:50 JST
S&P、独仏など15カ国を格下げ方向で見直し
2011/12/6 7:08
【NQNニューヨーク=森安圭一郎】米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は米東部時間5日夕、ドイツ、フランスなどユーロ圏の15カ国の長期債務格付けについて、引き下げ方向で見直すことを意味する「クレジットウォッチ・ネガティブ」に指定したと発表した。ユーロ圏の「組織的なストレス」がここ数週間で高まっていることを理由に挙げた。
15カ国のうち最上位のトリプルAの格付けを持つのは6カ国で、独、仏のほかオーストリア、フィンランド、ルクセンブルク、オランダ。残り9カ国にはベルギーやスペイン、イタリア、アイルランド、ポルトガルなどが含まれる。
S&Pはユーロ圏の「組織的なストレス」の具体例として、(1)ユーロ圏全体の信用状況の悪化(2)最上位格付け国を含む国債利回りの上昇(3)危機対応を巡る欧州政策当局者の意見の不一致(4)政府や家計の高水準の負債(5)2012年にユーロ圏が景気後退に陥るリスク――などを挙げた。
クレジットウォッチ・ネガティブは、現時点では当該国の格付けを変更しないが、近い将来に引き下げる可能性が高まっている状況を示す。実際に格下げするかどうかについて、S&Pは「8~9日の欧州連合(EU)首脳会議の終了後、なるべく早く結論を出す」としている。
ユーロ圏国債 格付けを一斉見直し
12月6日 12時45分
ヨーロッパの信用不安が収まらないなか、アメリカの大手格付け会社が、5日、ドイツやフランスなども含めたユーロ圏の大半の国債の格付けを一斉に引き下げる方向で見直すと発表し、債券市場での各国の国債の取り引きなどへの影響が注目されます。
アメリカの大手格付け会社「スタンダード・アンド・プアーズ」は、5日、国債の格付けが最も高いドイツやフランスをはじめ、ユーロ圏の15か国の長期国債の格付けを一斉に引き下げる方向で見直すと発表しました。
この理由について、格付け会社では、ここ数週間でユーロ圏各国の国債の利回りが上昇し、国債発行による資金調達の環境が厳しさを増しているほか、市場の動揺を抑えるための当面の対策などについて、各国の間で足並みがそろっていないことなどを挙げ、信用不安の払拭(ふっしょく)に向けた取り組みの遅れに強い警鐘を鳴らしています。
発表に先立つ5日のヨーロッパの債券市場では、ドイツとフランスの首脳が各国の財政規律を強化するための新たな条約を結ぶことで合意したことなどを材料に、財政状況の厳しい国の国債が大幅に買い戻され、利回りが低下していました。しかし、その後、格付け会社の発表の内容が一部で報道されると、ニューヨーク株式市場では、ダウ平均株価の上昇幅が、一時、150ドル余り縮小するなど市場に動揺がひろがっており、6日のヨーロッパの債券市場での国債の取り引きや各国の株式市場への影響が注目されます。
今回、スタンダード・アンド・プアーズは、ユーロ圏15か国の長期国債の格付けを「クレジット・ウォッチ」と呼ばれる見直し対象に指定しました。見直しの方向性はいずれも「ネガティブ」で、格付けを引き下げる方向だとしています。
会社側によりますと、見直し作業は90日以内に行われ、50パーセント以上の確率で実際に格付けが下げられるということです。
さらに、格下げされる場合は、最も高いトリプルAという格付けを持つ6か国のうち、ドイツ、オランダ、オーストリア、フィンランド、ルクセンブルクについては最大で1段階、フランスについては最大で2段階の引き下げになるという認識を示しています。
また信用不安が飛び火しているイタリアやスペインについても、格下げとなる場合には、最大で2段階の引き下げになるとしています。
今回、信用不安対策を協議するEU=ヨーロッパ連合の首脳会議を間近に控えて格付けの見直しを発表した理由について、スタンダード・アンド・プアーズは「会議でのEU当局の対応が断固としたものだと投資家に受け止められなければ、市場の不安が急速に強まり、政府や金融機関にとって市場からの資金調達がより困難になるおそれがあるため」と説明しています。
格付け会社としては、EU当局の対応によっては、格下げに踏み切ることもありうるという立場を示したものと受け止められています。
「スタンダード・アンド・プアーズ」が、ユーロ圏の大半の国債の格付けを引き下げる方向で見直すと発表したことに対して、ドイツとフランスの両政府は共同で声明を発表し、「両国は団結し、ユーロ圏の安定をはかるためヨーロッパ各国や関係機関と連携して、すべて必要な措置を取る決意だ」としてヨーロッパの団結を強めて危機を乗り越えていくと強調しました。
また声明では、ドイツとフランスが5日に、財政規律の強化策を盛り込んだ新たな条約についての提案をまとめたことについて触れ、この提案が、ユーロ圏の安定や競争力、それに経済成長を回復させることにつながるとしています。
これに関連してフランスのバロワン経済財政産業相は、地元のテレビ局に対し、「スタンダード・アンド・プアーズ」の判断は、ドイツとフランスが5日にまとめた提案を考慮に入れていないと批判しました。
S&P、独仏など15カ国格下げ方向で見直し 首脳会議前に警告
2011/12/6 10:43
【ロンドン=松崎雄典】米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は5日、ユーロ圏15カ国の国債格付けを格下げ方向で見直すと発表した。ドイツやフランスなど最上級「トリプルA」格付けの6カ国も対象。欧州債務危機への対応を疑問視しており、8~9日の欧州連合(EU)首脳会議を前に警告を発した。
S&PはEU首脳会議の決定内容を受けて可能な限り早く結論を出す方針だ。2分の1以上の確率で引き下げる可能性があり、オーストリアやドイツなどは最大1段階、イタリアやスペインなどは最大2段階の格下げ幅になるという。ユーロ圏諸国で今回の見直しに含まれない2カ国のうちキプロスは既に格下げ方向で見直し中で、ギリシャの格付けは見直さない。
首脳会議の直前の発表になったことについてS&Pは「格下げ方向の見直しは、効果的で信用できる政治対応が首脳会議で打ち出されなかった場合の、ユーロ圏の信用力へのリスクを示したものだ」と説明している。
これまでの政治対応に対しては「小出し」「決定が遅い」などと批判し、危機を助長したとの認識を示した。ユーロ圏の財政統合については「財源を大規模にプールし、相互に財政を監視し合う仕組みであれば信用できる」と踏み込んだ統合を求めた。
欧州の銀行が資本増強に取り組む結果、信用収縮が起きていることや、投資家が各国国債により高い利回りを求めるようになったことも見直しの理由とした。景気後退リスクも指摘した。
米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスもユーロ圏国債の格付けを来年1~3月に再検討する方針を示しているが、S&Pの決定は本格的な見直し作業に入ることを意味しており、より踏み込んだ内容といえる。
欧州の安全網である欧州金融安定基金(EFSF)は、ユーロ圏のトリプルA国の信用力を支えに資金を調達しており、トリプルA格付けの国が減れば、EFSFの資金力は低下し債務危機は一段と悪化しかねない。
今回のS&Pの決定は、EUの対応への評価に深く踏み込んだうえ、首脳会議の直前を発表時期に選んでいることから、政治に圧力をかける動きとなった。EUの政治対応への懐疑的な見方は多くの市場関係者と共通するが、民間の格付け会社の判断としては行き過ぎとの批判も出そうだ。