計器故障でデータなく 避難の役に立たず
東京電力福島第一原子力発電所の事故に関して、政府の原子力安全委員会(委員長=班目(まだらめ)春樹・元東京大学教授)は23日夜、放射性物質の拡散を予測した模擬計算「SPEEDI(スピーディ)」の結果を発表した。
本来、事故発生時に住民が迅速に避難するために利用するはずだったが、東日本巨大地震による停電や計器故障で、前提となる放射性物質の放出量が分からず、避難に役立つ計算ができなかった。
このため、安全委では20~22日の原発周辺の大気中の放射性物質の観測結果をもとに放出量を逆算。これを前提に、改めて放射性物質がどう拡散するか計算した。23日午後9時にようやく結果を公表したが、米エネルギー省が同日午前9時に独自の計算結果を公表した後だった。
計算は、事故後の12日から24日までずっと屋外にいたと想定。最も影響を受けやすい1歳児が、大気中に漂う放射性ヨウ素を体内に取り込んだ場合の被曝(ひばく)量を予測した。その結果、現在避難や屋内退避の指示が出ている同原発から30キロの範囲外でも、一部の地域で被曝量が安定ヨウ素剤の予防投与の対象になる100ミリ・シーベルトを超える危険性があることが分かった。
安全委は「100ミリ・シーベルトを超えても健康に影響はない。しかも、屋内にいれば被曝量は屋外の10分の1から4分の1になる」としている。
安全委は、放出量を特定しない計算も行っていたが、結果を公表せず、専門家の批判を受けていた。
SPEEDI
原発事故で放出される放射性物質の拡散を、原発周辺の地形や事故時の気象条件を基にコンピューターで精密かつ迅速に予測するシステム。1979年の米スリーマイル島の原発事故を踏まえ、旧科学技術庁が開発を始めた。現在も改良が進められ、2010年度予算には7億8000万円が計上された。
(2011年3月24日 読売新聞)