防空圏めぐり「情報戦」=「緊急発進」で監視能力誇示-日米に対抗・中国
【北京時事】中国空軍は11月29日夜、東シナ海に設定した防空識別圏に進入した自衛隊と米軍の延べ12機に主力戦闘機が緊急発進(スクランブル)をかけたと発表したが、日本政府は「航空機の接近はない」(小野寺五典防衛相)と否定した。中国側は、自国の求める事前通報を無視して日米機が防空圏に相次いで進入するのに対抗。「緊急発進」の公表で、監視能力の高さを誇示したとみられ、防空圏をめぐる日中の対立は「情報戦」の様相を強めている。
◇既成事実化に躍起
「実戦に近い環境で部隊を鍛え上げろ」。習近平中央軍事委員会主席(国家主席)は28日、済南軍区(山東省)を視察した際、「強軍目標」という言葉を繰り返してこう指示した。習主席の強軍方針に合わせ、沖縄県・尖閣諸島に対する強硬姿勢も軍主導で強まった。特に鮮明なのは「情報戦」を強化し、安倍政権への揺さぶりを強めている点だ。
中国軍は23日の防空圏設定直前に、空軍を含む7組織に報道官ポストを新設。空軍報道官は28日、主力戦闘機による防空圏での「パトロール常態化」を発表し、海と空での「尖閣支配」を既成事実化しようと躍起だ。
同報道官による29日夜の「緊急発進」発表では、どの空域を飛行したかや、どこまで接近したかは不明。発表そのものが目的であり、事前通報なしに防空圏に入り、「緊急発進はなかった」と強調する日本や米国に対し、「本気度」を伝えることが狙いとみられる。
◇狙いは尖閣協議か
中国の防空圏設定をめぐり日米などが強く批判したのは、尖閣諸島上空を含めた点と、航空機に飛行計画の通知を義務付け、従わなければ「武力による防御的緊急措置を取る」とした点だ。
しかし、中国国防省報道官は通知義務に関連し「共同で飛行の安全を維持するよう望む」と協力を要請。共産党機関紙・人民日報は「防空識別圏は飛行禁止空域ではない」との見出しを掲げるなど、国際社会の警戒心を解こうとする意図も垣間見られる。
中国メディアは、オバマ米政権が航空会社に対して飛行計画を中国当局に通知するよう促す方針を決定したと伝えた米紙ニューヨーク・タイムズの報道に即座に反応した。中国にとって防空圏設定を通じて米国など国際社会との対立が深まることは回避したいのが本音で、中国政府が米政府の「譲歩」を歓迎しているのは確実だ。
人民日報系の環球時報は29日、米豪韓との対立を緩和し、「闘争目標」を日本に定めるよう主張した社説で、「日本側は危機管理メカニズムの交渉を始動させ、中日両国は新たな『暗黙の了解』を得られる可能性がある」と指摘。防空圏設定という対日強硬措置で危機を高め、尖閣問題をめぐり安倍政権に交渉を迫るのが中国の狙いとの見方が強い。(2013/11/30-18:43)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2013113000239
焦点:中国防空識別圏で試される米国の東アジア戦略
2013年 12月 1日 14:47 JST[香港/東京 29日 ロイター] -中国が尖閣諸島(中国名・釣魚島)を含む東シナ海上空に設定した防空識別圏(ADIZ)は、過去数十年にわたり同地域で大きな影響力を維持してきた米国に対する「歴史的挑戦」となる。
中国の海軍当局者は長年にわたり、西太平洋での米国のプレゼンスに対する不快感を示してきた。中国政府は今、第2次世界大戦以降の同地域の「戦略的常識」に異論を唱えている。
南シナ海の西沙諸島とスカボロー礁(中国名:黄岩島)や東シナ海の尖閣諸島での中国の海軍力誇示については、米政府も懸念を深めてきた。中国が23日発表した防空識別圏設定に対しては、グアム島から出動した米軍のB52戦略爆撃機2機が中国への事前通告なしに尖閣諸島上空を飛行し、迅速かつ象徴的な反応を示した。
中国の一方的な防空識別圏の設定は既に裏目に出ているとの指摘もあるが、同国の専門家は、今回の動きは長期的戦略の一環だと指摘。日本に安全保障を提供してきた米国にとって、幅広い意味で歴史的に重要な意味を持つとの見解を示している。
<戦略空間>
北京の人民大学で国際関係学を教えるShi Yinhong教授は、米国は中国が高い外交力を持つ貿易大国であることは受け入れているとした上で、中国が独自の「戦略的空間」を必要としていることも認識すべきだと指摘。中国の台頭を受け、米国は戦略的思考をより深める必要に迫られる可能性があると述べた。
今回の防空識別圏設定は極めて大胆な行動であり、一部の専門家からは、これまでの領有権主張に比べ、行き過ぎているとの見方もある。中国はこれまでも尖閣諸島周辺に自国の船舶を航行させてきたが、米国が直接的な軍事反応に出ることはなかった。
圏内を飛行する航空機を攻撃しようとする動きが確認されていないことから、防空識別圏設定は中国の「はったり」だとする声も聞かれる。また、突然の防空識別圏設定は、中国指導部が最近の東南アジア訪問時に語った「ソフトパワー」外交との整合性でも疑問が残るとの指摘もある。
田中均元外務審議官は「習近平国家主席は、ソフトとハード、保守派とリベラル派の間でバランスを取ろうとしている」と指摘。防空識別圏の設定は、それに至るまでの試行錯誤のプロセスだと説明した。
米当局者らは、中国が設定した防空識別圏が日本の識別圏と一部重なることは、危険を伴う戦略的シフトだと語る。事前通告なしに圏内を飛行する航空機に措置を講じるとする中国の方針は、不測の事態や誤算のリスクを高める恐れがある。
ある米政権当局者は、中国の防空識別圏設定が「摩擦と疑念を招く。すでに問題を抱える地域で、一方的に現状への変更を突きつけた」と批判した。
<長期化も視野か>
中国の防空識別圏設定は事前の検討が不十分だったとする見方もる一方で、日本国内では、中国が対立の長期化を図っているとする声はも挙がっている。
匿名の政府筋は防空識別圏設定について、短期的には尖閣諸島における日本の「実効支配」に影響する可能性があり、長期的には、中国が東シナ海と南シナ海に及ぶ広大な防衛圏を作る動きを示していると指摘した。
政策研究大学院大学の道下徳成氏は「中国の動きはこれまでのところ逆効果を生んでいるが、より長期的な目的、または国内政治に関係した目的がある可能性があり、注意が必要だ」と語った。
一方、中国国内では、防空識別圏の設定は歴史的使命だとする意見がある。
上海政法学院の軍事専門家、Ni Lexiong氏は「中国の行動は域内で軍事力を拡大する米国に対抗する手段の1つだ」と指摘。また「国益にかかわる問題でもある。農業中心だった国家が経済発展を経て海軍力を拡大する例はこれまでにもあった。世界でビジネス展開する国の当然の結果だ」と語った。
(Greg Torode記者、Linda Sieg記者、翻訳:本田ももこ、編集:宮井伸明)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE9B000T20131201
(2013年11月26日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
■威嚇で打破しようとする中国
主張の是非はともかく、中国政府の行動は愚かだ。尖閣諸島は米国が1945~72年に沖縄県の一部として支配していた時期を除いても、100年以上にわたり日本の実効支配下にある。これに対し、中国は威嚇行為で現状を打破しようとしている。尖閣諸島は潜水艦の重要航路に位置するため、支配下に置けば潜水艦の行動範囲を広げられるという中国海軍の野心を実現できるだけでなく、歴史的報復も果たせる。ただし、尖閣諸島は日米安全保障条約で米国の防衛義務の対象となるため、事態がエスカレートすれば危険は倍増する。
中国政府が国際法に照らしても自らの主張は正しいと確信できるのなら、国際仲裁機関への提訴を目指すべきだ。日本政府は提訴に同意しないだろうが、同じように自らの正当性を主張する立場から、中国政府が判決に従うという保証があれば国際仲裁に応じるかもしれない。それはさておき、日中両国は問題の解決を将来の世代の知恵に任せて棚上げし、以前の状態に戻すよう努めなくてはならない。その上で、漁業権や石油探査権など天然資源の共同管理を目指すべきだ。
一方で、中国政府の狙いは別にあるのではないかとの疑念も生じる。尖閣諸島を日米同盟に亀裂を生じさせる手段と捉えているというのだ。だとすれば、それは無責任なゲームでしかない。
UPDATE 1-米副大統領、防空識別圏めぐる緊張緩和目指し日中韓歴訪へ 民間飛行計画で日米は異なる対応
2013年 12月 2日 20:06 JST[ワシントン 1日 ロイター] - バイデン米副大統領は今週のアジア歴訪で、中国政府が沖縄県・尖閣諸島(中国名・釣魚島)を含む東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定したことを受けて高まる中国との軍事的緊張の緩和に努めつつ、尖閣諸島の領有権をめぐり中国と対立する同盟国日本を支持する立場を公式に示すことで、アジア外交における微妙なバランスの両立を図るとみられる。
副大統領は3日の日本訪問で、尖閣諸島問題で中国と対立する安倍政権に対し、1950年代から続く日米の軍事同盟が現在でも有効であることを確認する可能性が高い。
その一方、翌日訪れる中国では、この問題をめぐる米中の緊張関係を和らげようと中国政府に働きかけるとみられる。
オバマ政権のある高官は「われわれが常に同盟国とともにあるということや、中国と米国の2大主要国は21世紀に今までと違った関係を構築する道があるというメッセージを詳しく説明することは特に重要だ」と述べた。
米政府は尖閣諸島の主権については特定の立場を取っていないが、尖閣諸島が日本政府の施政権下にあることを認め、日米安全保障条約の適用範囲にあるとの見解を示している。
一方、防空識別圏を通過する民間航空機については日米の対応が分かれている。米政府は自国の民間航空会社に対し、東シナ海上空での飛行計画を中国当局に提出するように勧告。その後、航空会社3社は飛行計画を提出した。ただ、米政府はこれは防空識別圏の設定を容認するものではないとしている。
日本政府は国内民間航空会社に対し、中国側に事前に飛行計画を提出しないよう要請している。
中国外務省の洪磊報道官は、米国が飛行計画の提出を求めたことを評価する一方で、日本は問題を「故意に政治化している」と批判した。
米軍、自衛隊、韓国軍の航空機は先週、中国政府に事前通知することなく、中国が東シナ海上空に設定した防空識別圏内を飛行。これを受けて中国軍は戦闘機を緊急発進(スクランブル)させた。
中国との軍事衝突が懸念される状況を受け、バイデン副大統領は4日の習近平国家主席と会談で、危機的状況から脱する道を示すとみられる。
英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジョナサン・エヤル国際安全保障部長は「米国が取りうる行動としては、中国に対し、今回の行為はあまり賢明ではなく、むしろ逆効果であり、中国が単に(防空識別圏を)主張しないだけで危機から脱する道があると伝えることが考えられる」と述べた。
これに対し、北京大学国際関係学院のJia Qingguo副院長は、中国政府はバイデン副大統領に対し、防空識別圏は世界の20カ国以上が設定している国際慣行だとして自国の設定の正当性を主張する可能性が高いと指摘。
同氏は「双方がお互いの意図を推し量り、問題を明確にとらえ、今後何が起きるかについてある程度理解することが有益だが、この問題はおそらく長引くだろう」と述べた。
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http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL4N0JH2FT20131202