東京電力と原子力損害賠償支援機構が、メガバンクなどの取引先金融機関に対して追加融資を要請する方向で調整に入ったことが8日分かった。経営基盤を強化し、福島第1原発事故に伴う巨額の廃炉費用や電気の安定供給を確保したい考え。政府は東電に最低1兆円規模の公的資本を注入する方向で検討を始めており、経営破綻が事実上回避されることになれば、取引先金融機関も追加融資に応じる構えだ。
東電は、これまで社債発行による資金調達が中心だったが、事故以降、格付けを相次いで下げられたため、現在は社債を発行できていない。金融機関からの「つなぎ融資」で資金繰りを維持してきたが、財務基盤は日増しに弱くなっている。
取引先金融機関にとって、最大の懸案は政府が債権放棄などの「貸手責任」を求める姿勢を強めていたこと。債権放棄すれば「東電を破綻企業として扱わざるを得ず、追加融資に応じることは難しくなる」(メガバンク幹部)ため、政府の対応を注視していた。
東電内には「取引先金融機関の協力なしには電気の安定供給の確保も厳しい」(幹部)との意見もあり、主要取引先金融機関からも「国が資本を入れてくれるのは歓迎。融資しやすくなる」(幹部)との声がある。【永井大介】
毎日新聞 2011年12月8日 東京夕刊
追加の資金援助要請も=自主避難者らの賠償負担で-公的資金注入排除せず・東電社長
東京電力の西沢俊夫社長は8日、時事通信とのインタビューに応じ、自主避難者らへの賠償負担が増えれば、東電の経営を支援している原子力損害賠償支援機構に対し、追加で資金援助を要請する可能性に言及した。同社長は「巨額の賠償であれば一瞬にして債務超過に陥る可能性がある。債務超過にならなくても余裕があるに越したことはない。それらを踏まえて検討したい」と述べた。
東電福島第1原発事故の賠償範囲を検討する原子力損害賠償紛争審査会は6日、福島県内23市町村の自主避難者と滞在者に一律8万円、子どもと妊婦に40万円支払うとの指針を策定。東電は10月、機構に対し、今年度の賠償額として約9000億円の支援を要請。文部科学省によると、新たな賠償対象者は約150万人、2160億円程度に及ぶとされ、賠償額が膨らむのは確実な情勢だ。
西沢社長は支給要件について「そこに住んでいることが分かればそれでいい」と、最低限の証明で対応する考えを示した。ただ、「対象者が膨大で、国や機構、自治体と相談している」と述べるにとどめ、スケジュールを含め具体的な言及を避けた。住民の不満が大きい賠償額に関しては「基本的には指針に沿った形になる」と語った。(2011/12/08-19:51)
http://www.jiji.com/jc/c?g=ind_30&k=2011120800826
東電:実質国有化へ 政府、公的資本1兆円注入
政府は、東京電力に少なくとも総額1兆円規模の公的資本を注入する方向で調整に入った。福島第1原発の事故対応費用の増加などで、13年3月期に東電が債務超過に陥る可能性が高まっているため。来年6月の定時株主総会で新株を発行する枠である株式授権枠の大幅拡大について承認を得た上で、原子力損害賠償支援機構が東電の新株(優先株)を引き受ける形で来夏の実施を目指す。勝俣恒久会長ら東電の現経営陣の大半を退陣させ、東電の一時、実質国有化に踏み切る構えだ。
野田政権は藤村修官房長官が座長を務める「電力改革及び東京電力に関する閣僚会合」などで東電の経営形態について議論しており、年明けにも公的資本注入の方針を示す考え。東電側は原発の早期再稼働と電気料金の大幅値上げを強く求めているが、政府は「消費税率引き上げの議論もあり、国民の理解を得るのは容易ではない」と判断。電力の安定供給確保の観点から、東電を法的整理には追い込まず、資本注入をてこに経営改革を主導したい考え。
東電は12年3月期で約5763億円の最終赤字を見込み、純資産は7088億円と1年前の2分の1以下に減少する見通し。自己資本比率も6%台に低下し資本増強が喫緊の課題だが、格付けの低下で市場からの資金調達は困難と見られる。
東電は既に、損害賠償の費用として支援機構経由で国から計8900億円の支援を受けているが、使途は賠償費用に限られている。今後膨らむ除染費用や事故炉の廃炉費用の規模が判明していく過程で債務超過に陥るのは確実と見られている。
廃炉を巡っては、内閣府原子力委員会の部会が7日に工程を盛り込んだ報告書を策定。具体額は未確定だが、政府の第三者委員会の試算では1~4号機で1兆1510億円が必要とされ、5~6号機を加えればさらに経費がかさむ。政府が今春に作成した財務試算資料によると資本注入の額は最大で2兆円。政府関係者は「現在の財務状況では最低で1兆円は必要」と話す。
資本注入は、東電が発行する優先株を支援機構が引き受ける形で実施する。東電の発行可能な株式の総数が18億株なのに対し、現在の発行済み株式は約16億株。このため、優先株発行には株主総会で株式授権枠を拡大するための定款変更が必要になる。
発行する優先株には議決権を有する普通株への転換権を付与する方向で、全体の株式数が増える分、既存株主が保有する株式の価値は低下する可能性が高い。
◇優先株
株主総会での議決権が制限される代わりに、普通株に比べて配当利回りや解散時の財産配分などで優先される株式。発行する企業にはコストがかかるが、高配当のため投資家に買ってもらいやすく、自己資本充実のための有効な手段となる。普通株への転換権を付与するケースが多い。バブル経済崩壊後に大手銀行が公的資本注入を受けた際にも用いられた。
◇「東電解体」にらむ
政府が東京電力に公的資本を注入する狙いは、同社の経営改革を国が主導し、発送電分離や原発の国有化などエネルギー政策の抜本的な見直し作業を強力に推進するためだ。資本注入に加え、勝俣恒久会長ら現経営陣に代わる新しい経営者を外部から登用する方向で人選する意向で、東電の経営権を国が掌握することを狙う。
東電は3月の福島第1原発事故以降、極めて厳しい経営状態が続く。電力の安定供給や確実な賠償の履行、市場の混乱回避などを優先するため、政府の原子力損害賠償支援機構が「実質的に経営を維持」(経済産業省幹部)してきたのが実情だ。
それでも東電経営陣はあくまで自力再建を目指すが、今後は数兆円に達するとされる廃炉や除染の費用が重くのしかかってくる。東電は資産売却や人件費カットなどのリストラ策に加えて、電気料金の大幅な値上げと新潟・柏崎刈羽原発の再稼働で利益を捻出したい考えだが、枝野幸男経産相は料金値上げや再稼働に慎重姿勢を崩していない。
値上げや原発再稼働がなければ営業損失を解消することはできず、東電内にも「資本注入は避けられない」との声がある。金融機関にも資本注入による経営の下支えに期待する動きがある。
東電の経営形態を巡っては「電力改革及び東京電力に関する閣僚会合」などで、原子力部門を切り離して賠償支払いの主体となる清算会社として別会社化する案や、東電を持ち株会社に「原子力」「発電」「送電」の子会社を配置する分割案などが取りざたされている。東電はこうした事実上の「解体案」に強く抵抗しており、年明け以降は経営形態の見直しを巡って政府側との激しい綱引きが予想される。【斉藤信宏、三沢耕平、永井大介】
毎日新聞 2011年12月8日 2時30分(最終更新 12月8日 7時46分)
東電、廃炉へ3兆円調達検討 資本注入で実質国有化へ
東京電力と原子力損害賠償支援機構が、福島第1原発事故に伴う巨額の廃炉費用などに対応するため、公的資金による資本注入と取引金融機関の追加融資により、13年3月期から4年間で総額3兆円を調達する財務基盤強化策を実施する検討に入ったことが8日、分かった。実現すれば、東電は実質国有化される。
東電の経営破綻を回避し、事故の確実な賠償や電力の安定供給を確保する狙い。今後見込まれる廃炉費用などの負担で債務超過に陥るのを避けるため、12年3月末をめどに策定する総合特別事業計画で経営改革の柱とする。
東電と機構は現在、財務強化策について主要取引銀行と個別に協議している。
2011/12/08 14:05 【共同通信】