2011年7月17日
◆名大教授ら指摘、中電は存在を否定
中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)の真下を通り、室戸岬(高知県)に延びる長さ400キロの巨大な活断層が存在する可能性があることが、鈴木康弘名古屋大教授(変動地形学)らの研究で分かった。中電は独自の調査結果で活断層の存在を否定しているが、東日本大震災を受け、専門家らは耐震評価の見直しを訴えている。
日本列島周辺の海底を調査した海上保安庁のデータを基に、鈴木教授と中田高広島大名誉教授らが2009年に詳細な海底地形図を作製し、研究を進めている。その結果、浜岡原発周辺の太平洋岸から室戸岬付近まで400キロにわたり幅10~30キロ、深さ300~1000メートルの海底のたわみ「撓曲(とうきょく)」を確認。「遠州灘撓曲帯」と名付けた。
撓曲は、もとは水平だった地形が、その地下にある活断層の動きで、できるとされ、「遠州灘撓曲帯」の地下には、同じ長さの活断層が想定される。
鈴木教授は、浜岡原発の北東2キロにあり、段丘状に隆起している「牧之原台地」も、遠州灘撓曲帯を形成した活断層の動きによる地形と推測し、浜岡原発の真下に活断層がある可能性を指摘している。
中電は、浜岡原発の半径100キロ圏内の海域に14の活断層があることは認めているが、音波探査の結果、遠州灘撓曲帯に対応する活断層はないとしている。
中電が把握している活断層の中で最も強い揺れを想定する「石花海(せのうみ)海盆西縁断層帯」は長さ34キロ。活断層は近くて長大ならより強い揺れをもたらすとされ、鈴木教授は「可能性のある断層は想定に入れるべきだ」と求めている。
◆保安院での議論、未決着
遠州灘撓曲帯は、2009年11月の原子力安全・保安院の審議会で「新説」として取り上げられ、議論が続いている。震災の影響で審議が中断していることもあり、活断層か否か、結論は出ていない。
審議会で、中部電力は海上から音波を出し、反射から海底の地質構造を調べる海上音波探査で地質構造を分析した結果、「撓曲帯に対応する地層の変化はみられない」として、活断層を否定した。
ただ、音波探査で把握できる地質構造は地下5キロ程度。より深い地下に活断層が潜んでいる可能性は捨てきれない。昨年6月の審議会で、宇根寛・国土地理院関東測量部長ら複数の委員が「中電の説明は十分ではない」と指摘した。
中電は現在、委員の質問への回答を準備中としつつ、本紙の取材に「断層による地形ではないとご理解いただいている」と主張。委員の遠田晋次京都大准教授(地震地質学)は「返答を待っている状況で、まだ議論が必要」と語り、宇根部長も「想定外の事故が起きてからでは遅い」と話す。