被害者補償は不透明
集団食中毒事件を起こした焼き肉チェーン「焼肉酒家えびす」の運営会社で、清算中の「フーズ・フォーラス」(金沢市)は11日、金沢市内で債権者説明会を開いた。
勘坂康弘元社長は、被害者補償を最優先するため、債権を放棄するよう求めたが、出席者からは反発の声も聞かれた。被害者への優先配分には債権者全員の同意が必須。同社は理解が得られない場合、裁判所による特別清算手続きに移行するとしており、被害者への優先補償が実現するかは不透明な情勢だ。
説明会の冒頭、勘坂元社長は「このような状況になったことを深くおわび申し上げます」と謝罪し、「被害者優先、債権放棄にご賛同いただきたい」と訴えた。
清算人らは説明会で、同社の負債は11億円超で、現時点では約7億円の債務超過状態にあることを伝えた。そのうえで、「被害者補償は5億円を下らない」とした。また、現在、石川、富山など4県の20店舗の売却について、全国でレストランを展開する会社と最終交渉に入っていることを報告した。
説明会に出席したOA機器業者は「被害者が最優先なのは理解できる。会社には社会的責任を果たしてほしい」と債権放棄に一定の理解を示した。一方で、食品の卸業者は「未払い金を回収できなければ倒産する会社も出てくる。債権放棄には応じられない」とした。
同社は、店舗売却や預金、保険金などで5億円近くの資産確保を見込んでおり、債権放棄への同意を得た上で、これらを被害者への補償に充てたい考えだ。しかし、現時点で、預金は銀行3行が凍結しており、解除の見通しは立っていない。
ある取引銀行の担当者は「凍結した口座預金と債権を相殺し、残りの債権を放棄する形で妥協したい」と話し、債権放棄には応じるものの、担保として凍結している預金の解除には否定的な見解を示している。
仮に、店舗売却や凍結されている預金が解除されたとしても、被害者補償への資産として十分とは言い切れず、代理人弁護士らは「被害者らに100%満足してもらうのは難しい」との認識を示し、補償金の支払い開始時期についても、「早くても秋以降」とした。
代理人弁護士らは説明会後の記者会見で、近く被害者約200人に、治療費や症状を届け出てもらうための通知を発送するとした。また、元従業員らの未払い給料などに関し、労働基準監督署から是正勧告を受けたことを明かし、今後、勧告に従い、全額を支払う方針を示した。
(2011年7月12日 読売新聞)
生肉食中毒:「えびす」清算手続き 11日に債権者集会
焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件で、経営するフーズ・フォーラス社(金沢市)が8日、会社を解散し清算手続きに入った。同社は食中毒の被害者補償額が5億円を超すとみており、清算のための会社を設立して資産売却を進めるほか、加入している賠償責任保険と金融機関にある預金で対処したい考えだ。しかし、預金を担保に融資している金融機関が口座を凍結しており、引き出せない状況だ。同社は11日、金沢市で開く債権者集会で被害者補償を優先することへの理解を求める方針。
食中毒では4人が死亡、約170人が発症した。代理人弁護士は「被害者補償を最優先させたいとする勘坂(かんざか)康弘・同社元社長の意向で対応を検討してきた」と説明。保険で約1億円、全20店舗の一括売却で2億円以上の収入が見込まれ、複数の金融機関に計約3億円の預金もあるという。一方、金融機関に約8億円▽仕入れ先などに約1億円▽元社員の未払い賃金で約2500万円--などの負債も抱えている。
金融機関には預金を担保に債権を相殺できる民法上の権利があり、最優先される。代理人弁護士は「補償するには預金の扱いが最大の課題だが、このままでは民法の規定で十分な補償が不可能」という。同社は、口座の凍結解除で被害者補償を先に進めた後で債務への対応を考えたいとしているが、事実上、債権放棄を求めざるを得ないとみられる。凍結解除について、同社と取引のある金融機関3社は取材に対し「コメントできない」としている。
同社は、食中毒の原因食材とみられるユッケ用生肉を納入した食肉卸業者「大和屋商店」(東京都板橋区)への損害賠償請求も検討している。
食中毒の被害者の中には、家族の医療費に1000万円以上かかっている人もおり、深刻な事態となっている。被害者からは「会社側からの連絡は途絶え、行政支援もない。自分が本当に被害者なのか分からなくなる」と、不安や憤りを訴える声が出ている。【宮本翔平、宮嶋梓帆】
毎日新聞 2011年7月9日 2時35分