2011年6月13日10時29分
東日本大震災で被災した岩手、宮城両県の漁港周辺の避難所が、ハエの大量発生に悩まされている。津波で散乱した魚類などが原因で、専門家は感染症の広がりなどを心配する。
約40人が避難する岩手県陸前高田市気仙町の漁村センター。調理場の女性は、ハエを手で払いのけながら夕食を用意する。つり下げられた4本のハエ取り紙には、50匹ほどが絡め捕られていた。
「ハエが食材に付かないように、一人は追い払う係なの。大きいのは小指の先ぐらい」。佐藤妙子さん(71)は、顔の辺りを飛び回るハエをのけぞってよけながら苦笑した。
強烈な悪臭、大量のハエ…魚介類腐敗進む被災地
東日本大震災の発生から11日で3か月を迎えるが、津波の被害が大きかった岩手県沿岸南部では、水産加工会社の冷蔵庫から流出したサンマやイカなどの魚介類の腐敗が進み、ハエが大量発生している。
大船渡市は市内沿岸部全域の害虫駆除を今月中に業者へ委託する方針だ。専門家は「放置しておくと衛生上の問題や感染症の恐れもある」と注意を呼びかけている。
大船渡市の沿岸部。海沿いに立ち並ぶ水産加工会社の冷蔵庫が津波で流され、1万5000トン以上のサンマやイカ、カツオなどの魚介類が散乱した。気温が高くなるにつれて腐敗が進み、強烈な悪臭を放つようになった。腐敗した魚の上をウミネコが舞い、ハエがたかっている。
陸前高田市でも、流出した約1200トンの魚がいまだ手つかずのまま。同市気仙町の仮設住宅で暮らす男性(62)は「部屋には常に数匹のハエがいる。食べ物にたかるので衛生的に不安」と困惑する。
害虫駆除業者でつくる社団法人「岩手ペストコントロール協会」は、5月から陸前高田と大船渡両市を中心にハエの駆除に乗り出した。2~3人でチームを組み、トラックの荷台に殺虫剤溶液を積んで現場に向かう。悪臭が強烈なため、防護服を着込み、液剤を高圧噴射できるホースで、がれきや魚に散布していく。費用は、同協会関係者の依頼を受けた民間活動団体(NGO)が拠出している。
大船渡市は同協会に所属する害虫駆除業者などに、6月中にも沿岸部全域にあたる約760ヘクタールの防疫を委託する予定。しかし、1平方メートルあたり約2リットルの殺虫剤が必要になり、「数年にわたった場合、億単位の膨大な予算がかかる」(市民生活環境課)と話している。
同協会によると、がれきや腐敗した魚にたかったハエが赤痢菌などを媒介し、食べ物などを汚染する恐れがあるという。協会の沼山祐司さん(44)は「これから暑くなると、さらにハエの数は増える。今のうちから蚊帳や網戸でハエとの接触を減らしてほしい」と呼びかけている。
(2011年6月11日17時26分 読売新聞)
腐敗水産物にハエ、避難所に蚊 梅雨目前、衛生面に腐心
東日本大震災で大きな被害を受けた岩手、宮城両県の沿岸自治体では、梅雨入りを前に、衛生環境面の悪化が懸念されている。宮城県気仙沼市などでは放置された魚介類から発生した悪臭やハエが住民を悩ませており、同石巻市の避難所でもハエや蚊が増えている。各自治体は関係機関と連携し、殺虫剤の散布など具体的な対策に乗りだした。
◎腐敗水産物にハエ群がる・気仙沼/3000平方メートルに殺虫剤散布
気仙沼市階上地区は、気仙沼向洋高の校舎4階まで津波が押し寄せるなど大打撃を受けた。近くの水産加工会社も被災し、田んぼや水路などに大量のサンマやサメの切り身などが流出。気温の上昇とともに強烈な腐敗臭を放っている。
最近は大量のハエが飛び交うようになった。地元の介護ヘルパー平田冨喜子さん(55)は「窓が開けられない。干した洗濯物にハエが卵を産み付け、洗い直すこともある」とうんざり顔だ。
市は1日、非政府組織(NGO)の協力を受け、地区の約3000平方メートルに殺虫剤を散布した。岩手県でも、陸前高田市や大船渡市などで駆除を始めつつある。
被災地で害虫駆除に取り組む日本ペストコントロール協会(東京)によると、ハエは腸管出血性大腸菌などを媒介し、食中毒の原因になる。協会は「野外の炊き出しにもハエが群がるようになった」と注意を促す。
腐敗した魚介類の処分は冷凍・冷蔵施設が中心で、各自治体とも農地や水路に流出したものまで手が回らない。大船渡市は魚介類の埋め立て地に消臭液を散布するなど対応に苦慮している。
今後は蚊の大量発生にも注意が必要だ。他人の血液を媒介し、感染症を拡大させる恐れがある。
日本ペストコントロール協会は「津波被災地の水たまりは今のところ塩分濃度が高く、ボウフラの発生は抑えられている。梅雨に入れば真水に近づくので、水たまりをなくすなど早めに手を打ってほしい」としている。
◎避難所の蚊・ダニ深刻に・石巻/不安解消、聞き取り調査
石巻市では5月27日現在、7414人が学校や公民館など99カ所で避難生活を送っている。衛生環境の維持に向け、各避難所では消石灰の散布や入室前の手の消毒などが行われているが、仮設トイレやごみ置き場にはハエや蚊などが以前より多く飛ぶようになった。
石巻市湊小に避難している無職女性(72)は5月中旬、全身のかゆみに悩まされた。風呂のサービスを利用することで解消されたが「肌が敏感になっているとすれば、これからの時季は蚊やダニなどが心配」という。
市は4月から業者に消毒薬の散布を委託しているが、衛生環境の悪化を懸念する市民の声を受け、今月からは石巻薬剤師会と連携し、臨時職員が15人態勢でハエや蚊などの被害が深刻化するとみられる避難所17カ所の仮設トイレやごみ置き場に殺虫剤をまいている。
石巻で活動中のボランティア団体で構成する石巻災害復興支援協議会は組織内に「ダニ・バスターズ」を結成。寝具の管理状態などを避難者から聞き取り、こまめな清掃を呼び掛けるほか、布団乾燥機や空気清浄器の調達も検討している。
食中毒を不安視する声もある。ほとんどの避難所では冷蔵庫が設置されていないため、配給される弁当やパン、おにぎりなどの食事は常温で保管しているからだ。
市は宮城県に冷蔵庫と扇風機の確保を要請し、50人以上が避難する60~70カ所に配備する計画を立てた。配給の食事は保管せずに食べきるなど、避難所内のルール徹底も呼び掛ける。
市避難所運営対策室は「避難生活が梅雨時に差し掛かった災害は先例が少ないため、情報収集と衛生管理が急務。適切で柔軟な衛生対策を目指す」としている。
2011年06月05日日曜日