2011年3月23日 20時19分 更新:3月24日 1時23分
東京都葛飾区の金町浄水場で、水道水から1キログラム当たり210ベクレルの放射性ヨウ素が検出された。都は23区内などで乳児の飲用を控えるよう求めたが、入浴などには利用してもいいのか。幼児は大丈夫なのか。生活上のさまざまな疑問点を、専門家らの話を基にまとめた。【山崎友記子、五味香織】
◇乳児には厳しい基準
Q なぜ1歳未満の乳児だけなの?
A ヨウ素は甲状腺に集まりやすい。成長が盛んで甲状腺の発達が進む時期に、放射性ヨウ素を大量に取り込むと、がんのリスクが高まると考えられている。原子力安全委員会は放射性ヨウ素が300ベクレルを超える飲料水は飲用を控えるよう定めており、食品衛生法に基づく暫定規制値は100ベクレルを超える牛乳などを乳児用の粉ミルクや飲用に使わないとしている。これを基に国は福島第1原発の事故後、乳児に100ベクレル超の水道水を摂取させないよう求めていた。
Q 妊婦は?
A 胎児には放射性物質の規制値がなく、都は現時点で妊婦に摂取しないよう呼び掛けてはいない。ある産科医は「現状では水道水はできれば避けるのが望ましいが、ペットボトル入り飲料水が入手できずに強いストレスを感じるなら、その方が母体に悪い」という。
Q 乳児はお風呂や歯磨きにも使わないほうがいい?
A 厚生労働省は「問題ない」との見解。哺乳瓶や果物を洗ったり、手洗いをするのも水道水で構わない。丹羽太貫(おおつら)・京都大名誉教授(放射線生物学)も「そもそも日本の基準が厳しすぎる。たとえ飲んだとしてもナーバスになる必要はない」と冷静な対応を求めている。
Q 粉ミルクの調乳にはミネラルウオーターを使えばいい?
A 粉ミルクにもミネラルが含まれているので、ミネラル分の多い硬水を使うと下痢をすることがある。ミネラルウオーターで調乳する際は軟水を使うほうがいい。
Q 浄水場で放射性物質は取り除けないの?
A 浄水場での水処理は汚れやにおいを取り除くが、放射性物質の除去は想定していない。左巻健男・法政大教授(科学リテラシー)によると、今回、暫定規制値を超える放射性ヨウ素が検出された金町浄水場はオゾンガスで汚れを分解し、活性炭で有機物などを吸着する高度な技術で処理をしている。それでも放射性物質の除去はごく一部にとどまるとみられる。
Q 家庭用浄水器や煮沸では減らせる?
A 一般的な家庭用浄水器も浄水場と同様の仕組みなので、あまり期待できないと考えた方がいい。煮沸でも難しいとされている。
Q 水道水の摂取を控える地域は広がるの?
A 厚労省は21日、全国の自治体の水道事業者などに対し、水道水から100ベクレルを超える放射性ヨウ素が検出された場合は、公表するよう通知を出している。今後自治体が発表する数値に注意しよう。
飲んでも心配なし…入浴・洗髪OK
東京都内に水道水を供給する浄水場から、乳児が飲む暫定規制値を上回る放射性ヨウ素が検出された。どのように受け止めたらよいのか。
ヨウ素は甲状腺にたまりやすく、甲状腺がんを引き起こす原因になる。飲用水の暫定規制値は水1キロ・グラム当たり300ベクレル、体が小さく放射性ヨウ素の影響を受けやすい乳児は100ベクレルと定められている。笠井篤・元日本原子力研究所研究室長は「規制値は、実際に健康への影響が出る数値より、はるかに厳しく定められたものだ」と話す。
笠井元室長によると、今回検出された程度の値(210ベクレル)であれば、飲まないに越したことはないが、たとえ一定期間、乳児が口にすることがあっても影響が出る心配はない。入浴や洗髪に使っても体内に取り込まれる心配はなく、使用して問題ない。
ペットボトルなど代わりの飲み水がないからといって、無理して水道水を飲むのを我慢するのは、かえってよくない。専門家は「水分を取らないと、乳児が脱水などを起こすおそれがある」と指摘する。厚生労働省も「代替となる飲用水がない場合は、飲んでも差し支えない」とする。
乳児期を過ぎた子どもや妊婦、授乳中の母親については、今回の値であれば、通常通り飲んでも問題ない。厚労省は会見で、「一般の暫定規制値を下回っていれば、普通に飲んで大丈夫と考えている」としている。
粉ミルクを溶かすのにミネラルウオーターを使う際は、水の「硬度」(カルシウムなどミネラルの含有程度)に注意が必要だ。硬度が高いとミネラルが過剰になり、腎臓に負担がかかる。輸入品には硬度の高い商品(硬水)もあり、商品表示を確かめたい。販売会社の「ビーンスターク・スノー」は、「硬度300以下を使うように」勧めている。
(2011年3月24日00時37分 読売新聞)