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2011/03/29

プルサーマル発電では、冷却機能が失われたときの危険性が既存のウラン燃料による発電所よりも高い。

2011/3/22 19:20
福島の3号機はプルサーマル



福島第1原子力発電所の3号機は、大量の放水で一安心と思っていたが、21日にも従来の水蒸気ではなさそうな灰色の煙がのぼり、温度も上昇し、再び世界中の注目を集めている。今回の事態でとりわけ3号機の状況が懸念されているのは、「プルサーマル」だからだ。実はそのことに技術に疎い筆者はしばらく気づかずにいた。

周辺の人々に聞いても、プルサーマルという言葉の意味を漠然とは知っていても、実際にどうウラン燃料と違うのかということをきちんと理解している人はほとんどいなかった。というわけでプルサーマルについて調べてみた。

ウォール・ストリート・ジャ-ナルの14日付の記事、「Officials Struggle to Prevent Meltdown at Two Reactors」では、プルサーマルは使用済み核燃料を再利用するもので、ウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX)を燃料に加工して使うというような簡単な説明をしている。

一般的な原子炉でもウランを燃料として発電する過程でプルトニウムができるが、そのプルトニウムを燃料として再利用するわけだ。ちなみに「プルサーマル」という言葉は和製英語で、「plutonium」と「thermal」を合成して作られた用語だそうだ。英語では、「nuclear power plants which use mixed oxide of uranium-plutonium (MOX) fuel」というような説明的な表現が使われている。

なぜプルサーマル原子炉が被災後、特に注目されているかというと、プルトニウムという金属が暴れん坊だからだ。ウランも危険だが、プルトニウムはもっと危険。ウランより融点が低く燃料溶解に至りやすく、臨界に達しやすいという。MOX燃料は放射能が強く温度が下がりにくいため原子炉が停止した後も冷却がたいへんなのだそうだ。また発がん性が高く、いったん体内に入ると排出されにくいという特徴もあるという。

とはいえ、従来の原子炉で発電するとプルトニウムが生成されるし、プルサーマルは従来の原発よりプルトニウムを多めに使うというに過ぎないともいえる。東京電力でも現在3号機の燃料集合体548個のうちMOXは32個だけだという。

被爆国である日本には原発に強い拒絶反応を持っている人が多い。だがエネルギー確保の一環として、あるいは温暖化ガスの削減という観点からも、ある程度原発は認めざるを得ないというのが、これまでの国民のコンセンサスだった。その燃料効率を一段と高めるのがプルサーマルだ。先のWSJの記事によると世界的には軍縮による核兵器の廃棄もプルサーマル発電推進の背景になっているという。核軍縮によってプルトニウムが大量に余ったため「メガトンからメガワット」、つまり発電用への用途の転換が進んでいるのだ。

日本政府は2005年に原子力政策大綱を定め、それに基づいて具体的な計画が作られた。2015年度までに16~18基の原子炉をMOX燃料で発電できるように設備を変更していくことになっている。基本的には従来の軽水炉を利用できるそうだ。

現在、東電はイギリスとフランスにウランの使用済み燃料を送り再処理をしてもらっている。国内では青森県六ヶ所村で再処理工場の建設を進めているがトラブルが続き国産化は遅れている。

各地方の電力会社は、2009年秋に九州電力の玄海発電所(佐賀県玄海町)で初のプルサーマル発電を稼働させた。次が四国電力の伊方発電所(愛媛県伊方町)、そして昨年10月に東京電力の福島第1発電所、さらに12月には関西電力の高浜原子力発電所もMOX燃料による発電を開始した。

しかしプルサーマルに限ったことではないが、日本国民の多くがこれまで原発を容認してきたのは、あくまで原発技術は安全だと信じていたからだ。何重にも安全対策を講じているから大丈夫と言われ、事故は絶対に起きないとは言われて“いなくても、”起きないと信じて原発建設を許してきたのだ。

未曾有の地震と津波の襲来に対し原子炉はしっかりと自動停止した。だが、原子炉は停止したら安心なのではない。熱を発し続ける燃料棒を長い時間を掛けて冷やさなければならない。その冷却機能が落ちると、いくら原子炉が停止しても広い範囲に大量の放射性物質をばらまくような大事故につながりかねないのだ。WSJでは「過去にもトラブル続きだった福島第1原発」という記事で、定期検査で稼働を停止していた原子炉でさえ、プールに移していた燃料棒が過熱して火災になるほど原発で冷却機能が失われることの影響が大きいことを指摘している。プルサーマル発電では、冷却機能が失われたときの危険性が既存のウラン燃料による発電所よりも高い。

東京電力や自衛隊、消防庁の人々の決死の作業によってチェルノブイリのような悲惨な事故につながることは回避できるとみているが、放射能汚染が起き、半径20キロメートル圏内の住民全員の避難などといった重大事態に陥ったことで、プルサーマルだけでなく既存の原発についても大きな見直し論議につながりそうだ。国内だけにとどまらず海外でも原発への懸念を高めるきっかけになっている。

記者: 竹内カンナ
トピックス:東北・関東大地震≫







核燃料から外部放出か プルトニウム、強い毒性と長い半減期
2011/3/29 1:22
 東京電力福島第1原子力発電所の敷地内の土壌からプルトニウムが検出され、放射性物質の放出が予想した以上に広がっている状況が明らかになった。「人体に影響を及ぼす濃度ではない」(東電)としているが、核燃料から放出した可能性が高い。これ以上、放射性物質が飛散しない対策に全力を挙げる必要がある。

 プルトニウムは、自然界に存在しない放射性物質だ。ウラン燃料が核分裂した際に作り出される。とても重い元素で簡単に飛散しないが、福島原発の敷地内で検出されたため、1~4号機で立て続けに発生した水素爆発や火災と関係している可能性が高い。

 現時点で発生源の特定は難しいが、まず疑われるのは3号機だ。

 3号機はウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)を使う「プルサーマル」を実施していた。3号機は燃料棒が損傷したとみられ、水素爆発も起こしている。プルトニウムが外部に漏れ出す最も可能性の高い炉といえる。

 プルサーマルでなくとも、通常のウラン燃料を燃やし続けると、燃料棒の中にプルトニウムはできる。このため、1~2号機の疑惑も拭えない。特に1号機は最初に水素爆発を起こし、2号機も格納容器の破損が想定されている。検出されたプルトニウムの種類から、運転していた燃料棒からの漏れが妥当とする見方が多く、発生源は3号機だけに限らない。

 さらに1~4号機の建屋には、使用済み核燃料プールがあり、その発熱も問題になっていた。最も使用済み核燃料の本数が多かった4号機では火災により建屋が損壊しており、4号機の使用済み核燃料プールから漏れ出た恐れも否定できない状況だ。

 プルトニウムは毒性が強く、特に中性子を出すプルトニウム238は発がん性のリスクを高める。国内の商用原発からプルトニウムを放出する事態は異例で、福島原発の問題は一層深刻度を増した。