2011年 06月 20日 20:22 JST
[東京 20日 ロイター] 菅直人首相の退陣時期をめぐり政治が再び迷走を始めた。党執行部は公債発行特例法案や第2次補正予算案の成立を「引き際」とする方向だが、決定打となるかどうかは懐疑的な見方もある。すでに野党側は不信任決議案というカードを使い切り、足元では首相自身の自発的な退陣しか道が残されていない。一方、9月以降に集中する重要政治日程をこなしていく過程で、逆に首相が態勢を立て直す可能性も一部で指摘される。
<6―8月退陣なら野田財務相中心に大連立も>
国内メディアによると、民主党は2011年度予算の執行に不可欠な公債発行特例法案の成立をにらみ自民、公明両党が求める子ども手当の見直しに着手、第2次補正予算案は2兆円規模で復旧事業が中心になるとの見通しを野党に伝えた。首相は退陣の条件として公債発行特例法案や2次補正予算案などの成立を挙げており、民主党内ではそれらの法案成立を「花道」とする方向。民主党執行部は首相の早期退陣で新政権に移行し、東日本大震災の復興に向けて政策を進めたい考えだ。
菅首相の後任には有力候補の野田佳彦財務相や小沢鋭仁前環境相、鹿野道彦農林水産相などが取りざたされる。代表選を経て首班指名される見通し。民主党内では衆参のねじれを是正し政策を遂行するには自民、公明両党を含む大連立が不可欠との見方が強まっている。みずほ証券シニアエコノミストの飯塚尚己氏は「現時点で一般に広く信じられているシナリオ」とみている。
ただ、自民、公明両党内ではスタンスの違いも出てきた。自民党内では「民主党の失策に手を貸すことになれば次の選挙で痛手になる」(関係筋)と大連立への参加に慎重な見方もあり、最終的には閣外協力とどまるとの観測が出ている。1990年代終盤に自民・自由・公明(後に自民・公明・保守または自民・公明・保守新)による連立政権が発足したが、ある自民党筋は、複数政党による大所帯でスタートし、その後は民主・公明の連立政権に集約されると予想する。
民主党の岡田克也幹事長は19日のNHK番組で、「(首相が)いつ辞めるかがメディアの関心事になっている。そういうことに時間を費やすのではなく、決断を待つということだ」とし、「復興には協力していくと野党に言ってもらっている。新しい政権になってからかもしれないが話していく」との考えを示した。自民党の石原伸晃幹事長は「総理の座に居直るための会期延長には反対だ。信頼性、確実性をつくれるようにする。パーシャル連合、部分協力、閣外協力、その先が大連立」と語った。
<重要政治日程の集中で野党に手詰まり感>
自民、公明両党は6月2日、不信任決議案を提出したが、反対多数で否決された。首相の退陣は自らの意思によるものを除けば不信任決議案の可決しかない。同一会期中に同じ議案を2度扱わない「一事不再議」の慣例があるため、次の不信任決議案提出には通常国会後の臨時国会などを待たなければならない。今国会の会期延長幅については3、4カ月とする案が有力だが、仮に年末まで延長した場合には、不信任案提出は来年1月召集の通常国会が次の「チャンス」となる。
しかも、9月から年末にかけては外交を中心に重要政治日程が集中する。9月前半の日米首脳会談、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、20カ国・地域首脳会議(G20)などが予定される。また、環太平洋連携協定(TPP)について与謝野馨経済財政担当相が11月までには態度を決める必要性を指摘している。
首相自身、2次補正や公債発行特例法に加え、再生エネルギー特別措置法案の成立にも意欲を示しているほか、北朝鮮による日本人拉致被害者の再調査を改めて北朝鮮に要求する考えも表明。家族会は9月を期限に制裁強化を求めている。
首相が辞任時期を明確にしないまま延命を図っても、ねじれが障壁となって今後の法案審議は進まない可能性が高いが、「(世論の後押しなどで)公債特例法案や補正予算案が成立すれば、それが実績となって世論が改めて首相を評価しないとも限らない。結局野党は攻めあぐねて自滅、逆に首相は態勢を立て直す余地ができる」と野党筋は警戒する。菅首相の内閣支持率は低下したとはいえ、政権末期に20%を割り込んでいた鳩山由紀夫前首相に比べればまだ高く、TPPなどの取り扱いによっては菅首相の支持率上昇に結び付く。外国人からの政治献金問題や内閣不信任決議という退陣必至の情勢を乗り切った菅首相に「退陣する気などない」――政府関係者からはこうした声も聞かれる。
(ロイターニュース 編集 石田仁志)