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2011/05/13

経産省は電力各社の負担金に関しては「各社が電気料金に転嫁できるコスト」(幹部)と認めており、いずれ料金の値上げにつながる

電力9社も負担金義務…政府、原発賠償策を決定
 政府は13日、東京電力福島第一原子力発電所事故の賠償策を巡る閣僚会合を開き、東電を公的管理下に置く賠償策の枠組みを正式決定した。

 政府が新設する「原発賠償機構(仮称)」の援助を受け、東電が被害者に賠償金を支払い、毎年の本業の利益から機構に返済する。東電が負担する賠償に上限を設けない一方、賠償支払いが終わるまで東電を債務超過にしないとの方針を明記した。

 枠組みでは、「原子力事業者である電力会社」が「機構への参加を義務づけられる」とし、東電以外でも、原発を持たない沖縄電力を除く8電力会社と日本原子力発電の計9社が機構に負担金を拠出することを義務づけた。また、東電支援の基本的な考え方については、「財政負担の極小化を図る」という当初の表現を「国民負担の極小化」に変更し、電気料金値上げに対する世論の反発を考慮した。

(2011年5月13日14時08分 読売新聞)




東電賠償枠組み決定 債権放棄案に銀行困惑
2011年5月14日 朝刊


 東京電力福島第一原発の賠償金支払いの枠組みが十三日、まとまった。東電を政府の管理下に置き、新たに設立する機構を通じて公的資金も投入。電力の安定供給と数兆円に及ぶ支払いの確実な実施を目指す。ただ賠償費用は、最終的に電気料金値上げの形で国民に転嫁される可能性がある。政府は東電に融資した金融機関から負担を引き出して値上げを抑止しようと躍起だ。 (上田融、村松権主麿)


 ■責任
 今回の枠組みは国と東電以外の電力会社が東電の賠償金の支払いを支援する一方、投入した公的資金は東電に全額返済させるのが前提だ。政府は当初、枠組み策定の方針を「財政負担の最小化」としていた。

 しかし、海江田万里経済産業相は十三日の会見で「『国民負担の最小化』に改めた」と強調。背景には東電の支払総額に上限を設けない一方、国の責任があいまいになることに民主党内から「国がもっと責任を果たすべきだ」などの異論が続出したことがある。

 そのため最終的な枠組みでは、電力供給に支障が生じるなど「例外的な」場合は、政府が補助を行う仕組みを盛り込み、国が最終的に支払いに乗り出せる余地を残した。今後は、原発を推進するために国が設立した基金のお金を賠償資金に転用するよう求める声が強まる可能性もある。


 ■不透明
 政府は東電の賠償資金支払いに伴う国民負担の軽減を目指すが、先行きは不透明だ。新たな機構には、東電など原発を保有する電力会社十社も負担金を出し賠償資金とする。ただ、経産省は電力各社の負担金に関しては「各社が電気料金に転嫁できるコスト」(幹部)と認めており、いずれ料金の値上げにつながる可能性もある。

 金融市場では「新機構が東電に資本注入すれば一株当たりの利益が減り株主は一定責任を取ることになる」との声が強く、政府も上場を維持する方針。ただ、枠組みは株主や東電に融資する金融機関の責任を明確に問う形にはなっていない。

 金融機関については枝野幸男官房長官が十三日、「(債権放棄が全く行われない場合)国民の理解は到底得られない」と強い口調で語った。

 ただ、債権放棄は金融機関の経営を直撃するため、厳しい綱引きが行われるのは確実。政府は今国会に枠組みの関連法案を提出し可決成立を目指すが、先行きは難航しそうだ。



    ◇

 東京電力による損害賠償支払いの支援策をめぐり、枝野幸男官房長官が十三日、金融機関が東電の債権放棄などをしなければ「国民の理解は到底得られない」と発言したことで、大手銀行に困惑が広がった。

 同日の決算会見で、三井住友トラスト・ホールディングスの田辺和夫社長は「どういう要請、中身なのか(要請が)来てから考える。現時点ではコメントできない」と戸惑いを隠さない。みずほフィナンシャルグループ(FG)の塚本隆史社長も「報道ベースの話でしか聞いてない中で、債権放棄うんぬんを考えられる状況にない」と語るしかなかった。

 金融機関の東電向け融資は約四兆円。債権放棄をした場合、金融機関は東電への融資分を「不良債権」に区分し直す必要に迫られ、各行が引当金を増やすなど経営にも悪影響を及ぼす。

 また、債権放棄は通常、破綻した企業向けに行われる。安易に債権放棄をすれば東電は破綻企業とみなされ、追加融資などが難しくなる。東電の資金調達が立ちゆかなくなり、金融市場が混乱する恐れもある。三井住友FGの宮田孝一社長は「金融市場に対する信頼感を担保することが大前提だ」と指摘した。

 ある大手銀行役員は、「放棄するのは簡単だが、その代わり信用を失った東電はつぶれる。こんなことが通ったら、われわれ銀行が行うほかの企業への融資にも影響する」と懸念している。