2011.1.12 22:27
会社法違反(特別背任)容疑で逮捕された篠原猛容疑者は企業の“乗っ取り屋”としても知られ、「敵対的買収」に乗り出すことで春日電機に侵食。大株主の立場を盾に創業者一族を追い出す形で社長に就任し、わずか1カ月の間に不正融資を繰り返すなど、上場企業を私物化していった。
訴訟資料や関係者によると、篠原容疑者が同社に接触を始めたのは平成19年始めごろ。創業者一族の当時の社長に同社株の取得を申し込んだ。社長側が拒否すると市場で同社株の買い増しを進め、20年1月には発行済み株式約38%を保有する大株主となった。
篠原容疑者が乗っ取りを仕掛けたのは20年6月27日。株主総会に乗り込んだ篠原容疑者は社長らの再任について、業績低迷などを理由に修正動議を提案。却下を主張する経営陣に対し「議長を代わりましょうか」などと畳みかけて総会を支配し、自らが社長に選任された。
創業者一族の追い落としに成功した篠原容疑者は、社長就任から3日後の同30日、自らが実質経営するアインテスラ社に3千万円を融資。さらに7月1日に3千万円▽同7日に4千万円▽同16日に2億円▽同17日に2億5千万円-と、湯水のごとく不正融資が繰り返された。同社では3千万円以上の融資案件は取締役会の決議事項と定められていたが、正式な取締役会を経ずに実行された疑いのあるケースもあるという。
篠原容疑者は同12月、融資の焦げ付きの責任を追及されて社長を辞任したが、同社関係者は「社長就任の目的は春日電機の経営でなく、ア社に金を引っ張ることだけだった。篠原容疑者の『我田引水』のために会社が乗っ取られた」と話している。
役員に書類作成指示=「速やかに融資を」―春日電機事件で元社長ら・警視庁
2011年1月13日15時6分
東証2部上場だった春日電機(東京都、現「カスガ」)の特別背任事件で、元社長の篠原猛容疑者(53)が元取締役の大槻洋容疑者(42)に融資関係書類を作成するよう指示し、経理担当者に渡していたことが13日、捜査関係者への取材で分かった。
元常務の佐藤将容疑者(61)も担当者に速やかに融資をするよう伝えたといい、警視庁捜査2課は3人が共謀し、春日電機から多額の金を流出させたとみて調べている。
篠原容疑者らは2008年6月から7月の間、実質経営する産業用品製造販売会社「アインテスラ」(中央区)に計5億5000万円を融資し、春日電機に損害を与えたとして逮捕された。
捜査関係者によると、篠原容疑者は08年6月の春日電機株主総会で社長に就任。アイン社社長の大槻容疑者も取締役に就いた。
その直後、篠原容疑者は3回にわたり、アイン社に無担保で計1億円を融資。翌7月にも、2回にわたり、同様に計4億5000万円を貸し付けた。
いずれの融資の際も、大槻容疑者に融資申込書や、送金先などを記した書類を作るよう指示し、経理担当者に渡していたという。
[時事通信社]
春日電機:役員に融資事前依頼 見返りに買収後の身分保障
経営破綻した元東証2部上場の産業用機械メーカー「春日電機」(旧本社・東京都三鷹市)を巡る特別背任事件で、篠原猛容疑者(53)が敵対的買収を進める際、同社の役員だった佐藤将容疑者(61)に買収後の身分を保障する見返りに無担保貸し付けへの協力を求めていたことが捜査関係者への取材で分かった。警視庁捜査2課は、篠原容疑者が春日電機の資産を買収直後から自由に動かせるように周到に準備していたとみている。
捜査関係者によると、篠原容疑者は春日電機を買収する前年の07年、株価や株主対策の担当役員だった佐藤容疑者と都内の料亭などで複数回にわたって面会。この際、篠原容疑者が事実上経営していたマーケティング会社「アインテスラ」(東京都中央区)について「財政が厳しいので、買収後は資金を貸し付けてもらう必要がある」と協力を依頼。「買収後の春日電機の経営は任せる」とも述べたという。
こうした工作が奏功し、篠原容疑者は08年6月に春日電機の社長に就任すると、3日後にはアインテスラに「スピード融資」を実行。買収に協力した投資会社からの「佐藤(容疑者)を役員から外せ」という指示も拒否し、役員に留任させた。
篠原容疑者らの逮捕容疑は、08年6~7月、春日電機の資金5億5000万円をアインテスラに無担保で貸し付け、春日電機に損害を与えたとしている。資金を工面するため、同社の定期口座まで解約したという。
捜査2課によると、篠原容疑者が容疑を認める一方、佐藤容疑者は「貸し付けには反対した。篠原容疑者が強引に実行した」と否認しているという。【川崎桂吾、前谷宏】
毎日新聞 2011年1月14日 15時00分
旧春日電機事件 流用資金で株取引
2011年1月13日 朝刊
経営破綻した旧「春日電機」をめぐる特別背任事件で、同社から流出した融資金五億五千万円の大半が、元社長篠原猛容疑者(53)=会社法違反容疑で逮捕=が実質的に経営するマーケティング会社「アインテスラ」の株取引の資金に充てられていたことが、警視庁捜査二課への取材で分かった。
同課は、篠原容疑者らが株取引の損失などで資金難に陥っていたアイン社に資金を流す目的で、春日電機を計画的に乗っ取ったとみている。
同課によると、篠原容疑者らは二〇〇七年以降、アイン社を通じて春日電機株約六百八十万株を取得。親密な別の投資会社が取得した分と合わせ、春日電機の発行済み株式(約三千七百万株)の約40%を取得して〇八年六月に経営権を掌握し、アイン社への融資を強行した。
当時、アイン社は株の信用取引で含み損を抱え、証券会社に担保として差し入れる委託保証金が不足。このため春日電機からの融資金の大半を追加の委託保証金(追い証)の支払いに充てた。
このほか、篠原容疑者に約三千万円、元役員大槻洋容疑者(42)=同法違反容疑で逮捕=に約四百万円を役員報酬などの名目で支払っており、個人名義の銀行口座に入金された金は生活費、光熱費などに充てられていた。
篠原容疑者は「(資金調達しやすい)上場会社を手に入れたかった。アイン社の上場計画が頓挫し、(東証二部上場の)春日電機を買収した。多額の貸し付けはアイン社を救うためだった」と供述しているという。