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2011/01/08

金融庁、空売り規制を2011年度前半にも導入

空売り、新たに規制 公募増資でインサイダー取引疑惑

 上場企業の公募増資をめぐる空売りで、株価が急落するケースが相次いでいることを受け、金融庁が新たな空売り規制を2011年度前半にも導入する。


 市場の透明性を高め、投資家の信頼回復を図る狙いだ。ただ、違法なインサイダー取引を完全に防ぐのは容易ではなさそうだ。(水上嘉久、関根晃次郎)


市場の要望受け 11年度前半にも


◆背景

 新規制の導入は、東京証券取引所など市場関係者の要望を受けたものだ。昨年、東京電力や日本板硝子などが行った公募増資で株価が不自然に変動するケースが相次ぎ、このままでは日本の金融市場に対する信用を失いかねないとの危機感が背景にある。

 空売りは、証券会社やほかの株主から株式を借りて売却する取引だ。株価が下がった時点で買い戻し、借りてきた株を返せば利益を出せる。大型の公募増資が行われる場合、短期的にみて1株当たりの利益が薄まる懸念から株価が下落しがちで、空売りで利益を得やすいとされる。

 昨年9月29日に約5550億円の公募増資を公表した東京電力の場合、翌30日の取引開始時に2092円と28日の終値比で8%以上下落した。新株の発行価格を安値に誘導するための投機筋による過度の空売りがあったとの見方が出ている。

◆効果は?

 金融庁はこうした不透明な取引防止に向け、公募増資の公表後、新株の発行価格が決定するまでの間、空売りした上で新株を取得することを禁止する方向だ。米国では同様の規制がすでに導入されており、過度に投機的な空売りによる株価下落を抑えることが期待できる。

 ただ、インサイダー取引による増資発表前の空売りを防ぐ効果はなく、金融庁は、上場企業や増資を引き受ける証券会社などに対し、情報管理の徹底を要請する。しかし、外資系ヘッジファンドの動きは捉えきれず、これだけでは対策は不十分といえそうだ。

 投機などによる株価下落を防ぐ増資として、既存の株主全員に新株予約権を無償で割り当てる「ライツ・オファリング」と呼ばれる手法もある。欧州では一般的だが、個人株主の特定などの事務負担から日本企業の実施例はほとんどなく、金融庁は使い勝手を高めるため開示手続きの緩和を検討中だ。

 政府は新成長戦略で「日本をアジアのメーンマーケットに」との目標を掲げるが、デリバティブ(金融派生商品)取引で世界一となった韓国や、香港などアジアの他市場の勢いに押され気味だ。経済界からは「アジアの成長資金を取り込むため、市場整備を急ぐべきだ」(日本経団連)との声が上がっている。

(2011年1月8日 読売新聞)