ページ

2011/05/15

「躊躇なく人を刺す非情な手口などから、強盗に手慣れた様子がある。営業所の実情を把握し、十分に計画を練った上で襲撃を実行した疑いがある」

6億円強奪事件 現金ありか熟知 手際の良い搬出 内部事情に詳しい人物関与か
2011.5.15 00:34
 東京都立川市の警備会社「日月(にちげつ)警備保障」立川営業所が未明に2人組に襲われ、史上最高額の現金約6億400万円が奪われた事件で、男らは多額の現金が一括で保管されていた金庫室以外は物色せず、小分けにされた現金を数分間で運び出して逃走していたことが14日、捜査関係者への取材で分かった。営業所の駐車場の照明が事件の30分前に消されていたことも判明。警視庁立川署捜査本部は会社の内部事情に詳しい人物が犯行に関与したとの見方を強めている。

 

■金庫室のみ物色

 2人組が侵入したのは12日午前3時ごろ。宿直の男性社員は1時間前に仮眠時間に入った。30分前には駐車場も消灯。犯人らはそれを確認して犯行に及んだ可能性がある。

 半年前から鍵が壊れていた腰高窓から侵入したとみられ、ソファで寝込んだばかりの社員を粘着テープで顔や手首を巻き上げて、視界を奪った。窓の鍵がまだ修理されていなかったことを知っている人物の関与が浮かぶ。

 侵入者を感知するセンサーも設置されていたが、作動しなかった。誤作動を防ぐため、宿直の社員がいるときは、切られていたからだ。犯人はそうした事情も知っていた可能性が高い。

 社員の右胸や足を数回刃物で刺し、鉄パイプで腕を殴打。「カネを出せ」「金庫室の暗証番号を教えろ」と迫った。金庫室は一般には知られていなかったが、犯人はそれ以外に物色することはなかった。

 社員から暗証番号を聞き出すと、1人が数分の間に金庫室と出入り口の間を往復し、1万円札が入った袋やバッグなどを運搬。もう1人はソファの社員を監視。硬貨ばかりの袋などは残して、紙幣だけ約70袋を出入り口に運び終えると、中から鍵を開け、屋外の防犯カメラから死角になる場所に止めた車で逃走した。


 ■躊躇せず刺す

 「躊躇(ちゅうちょ)なく人を刺す非情な手口などから、強盗に手慣れた様子がある。営業所の実情を把握し、十分に計画を練った上で襲撃を実行した疑いがある」。捜査関係者は、こう話す。

 事件があった12日未明は現金を奪うには“絶好”のタイミングだった。この日は多摩地区の各郵便局に配送する多額の現金が営業所に定期的に集められている日。夜までに集められた現金は一晩保管され、翌朝には各郵便局に配られる予定になっていた。

 そもそも、この場所に多額の現金が集められること自体が、ほとんど知られていない。近所の住民ですら「大金があるような場所には見えなかった」と話すほどだったが、犯人らは、配送システムまで把握していた可能性が高い。


 ■「遺留品」なく

 ただ、犯人は不定期で変えられていた金庫室の暗証番号を知らないなど、すべての事情に通じていたわけでもない。捜査関係者は「会社関係者に偶然、接触するなどして、何らかの形で内部事情を知った可能性もある」と指摘する。

 現場からは宿直社員を刺した刃物など、犯人の特定に直結するような遺留品は見つかっていない。2人組のうち1人は、金庫室内の防犯カメラに出入りする姿が何度も映っていたが、フード付きコートのような着衣に、マスクをしていたため、顔は分からない。現場から逃走した車はランプが近くの高校の防犯カメラにも映っていたが、やはり特定できていない。

 捜査関係者は「ほかの日でも営業所に現金が集まる日はあった。なぜ『5月12日』を狙ったのかだ。犯人がすべてを知っていたと先入観を持つことはできない」と話した。