東日本大震災で原発事故に遭った福島県で、医師の流出が深刻な問題になっている。県内138病院の常勤医が、原発事故当時から71人減少していることが判明。看護師の減少も続いている。放射線への不安から首都圏などの大学も医師派遣に二の足を踏んでおり、医療機能の停滞が復興の遅れにつながる恐れも。危機感を強める地元では優遇策の検討も始めた。
福島県によると、震災から9カ月の昨年12月1日時点で、県内の常勤医は1942人。震災当時(3月1日調査)に比べて71人も減った。
中でも、原発に近い沿岸部の相双地域では震災前の120人から61人に半減。県全体では4月以降さらに7人が減る見通しだ。
南相馬市では、厚生労働省が人材確保のため設置した医療・福祉復興支援センターが何とか3人を確保。だが、精神科の入院診療は部分的に再開したものの、4月以降の担当医は不透明だ。12人いた常勤医師が一時4人に減った同市立総合病院では一気に30人の募集に踏み切った。「原発被災地という特殊な環境での経験は、必ず将来の糧になる」との口説き文句で医師確保に必死だ。
研修医も当てにできない。かつては免許を取った新人医師の7割が大学に残り、へき地にも派遣されていたが、研修先を自由に選べる制度ができ条件の良い都市部の民間病院に集中。地方の病院は敬遠されがちで、とりわけ福島県では原発事故が追い打ちをかけた。
放射線への不安はもちろん、県内の医療現場からは「大学も人手不足で研修医をつなぎ留めるのに必死」「被災地赴任が出世にマイナスと考えている者もいる」と“本末転倒”を指摘する声も。
好転しない現状を打破すべく、復興支援センターでは福島勤務のうまみを強調する“ニンジン作戦”に出た。赴任した医師に「特命准教授」などの肩書を与えたり、勤務終了後の留学や配置面で優遇したりするよう、派遣元に働き掛けることにしている。
元三重大学長の豊田長康国立大学財務・経営センター理事長は「医師の供給を完全に市場に任せるのでなく、地域貢献を専門医の資格取得の要件にしたり、地元勤務を条件に奨学金を出す“地域枠”を拡大したりすることが必要だ」と話している。
[ 2012年2月17日 06:00 ]
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2012/02/17
福島県で、医師の流出が深刻な問題に
福島深刻…止まらない医師流出 優遇策の検討も