国会が設置した原発事故調は16日、国会近くの憲政記念館で第2回会合を開いた。政府事故調の畑村洋太郎委員長(東大名誉教授)が昨年末公表した中間報告書の内容を説明し、「(政府や東電の)責任追及は目的としない」と強調。黒川清委員長は同日報道陣に配った文書で「責任の所在を明らかにしつつ、真相究明を行うことが重要」とし、両事故調の姿勢の違いが浮き彫りになった。
畑村氏は中間報告の自己採点を問われ「90~95点」と回答。しかし国会事故調の委員は「地震・津波と原発事故の複合災害のおそれを関係者がなぜ無視してきたか、中間報告は(内容が)薄い」と指摘した。黒川氏は会合後の記者会見で、菅直人前首相らへの公開聴取も「検討事項に入っている」と語った。【笈田直樹】
毎日新聞 2012年1月17日 東京朝刊
政治家や東電追及に期待 国会事故調、強い権限で真相解明へ
2012.1.16 22:03
東京電力福島第1原発事故の原因を調べる国会の事故調査委員会が16日、本格的に始動した。政府設置など他の事故調にはない、強い調査権限を生かし、政治家や東電の責任にどこまで迫れるかに注目が集まる。ただ、報告書提出は6月と、与えられた時間は多くない。権限を活用し、事故の真相解明に結びつく成果を挙げられるか、委員らの手腕が問われそうだ。(原子力取材班)
国会事故調の最大の特徴は、法律に基づく強い調査権限だ。法律に基づいて設置され、政治家や東電、役人に対し出頭要請をする権限が与えられている。資料提出についても、事故調の求めがあれば7日以内に応じなければならないと法律で規定されている。
さらに、国会で証人喚問するといった国政調査権の発動も可能だ。理由なく拒否した場合は議院証言法で1年以下の禁錮などの罰則もある。
昨年12月に中間報告をまとめた政府の事故調査・検証委員会は法的根拠がないため、調査は任意となり、聴取や資料提出を拒否された場合に従わせる強制力を持っていなかった。
現状では政府事故調の調査に協力しなかったという例はないが、事故対応にあたった菅直人前首相への聴取は、中間報告の段階では行われなかった。畑村洋太郎委員長は「責任追及を目的としない」と明言しており、政治家や東電の責任追及が十分でないとの指摘も出ている。
このため他の事故調と比べ、強い権限を持つ国会事故調に期待する声は多い。黒川清委員長も「責任の所在を明らかにしつつ、真相究明を行うことが重要だ」と強調。菅前首相ら当時の政府首脳の公開聴取についても「悪くないチョイスだ」と意欲的だ。
さらに、政府事故調が「調査が円滑にできない」として非公表とした関係者からの聞き取り内容についても、黒川委員長は「(資料提出を)請求できるか検討中」とし、積極的に情報収集を進める構えだ。
ただ、懸念もある。国政調査権の発動には、上部機関の衆参両院の合同協議会の了承が必要で、黒川委員長も「ルールに沿ってやっていく」と慎重な姿勢だ。
与野党は「事故調を政治的に利用してはならない」と文書で申し合わせているが、“身内”である国会議員の証人喚問には配慮や思惑が生じる可能性があり、菅前首相や原子力行政にかかわってきた政治家の証人喚問や調査に、どこまで踏み込めるかは不透明だ。
九州大の工藤和彦特任教授は「政治家が事故時に何を考えて指示を出したか、不明な点が多い。強い権限を生かし、当事者の口から事故の真相を明かしてもらいたい」と話している。
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■国会の事故調査委員会 福島第1原発事故の原因究明と検証のため、昨年12月に国会に発足した調査機関。委員は科学者など民間から選ばれ、ノーベル化学賞受賞者で島津製作所フェローの田中耕一氏もメンバーとなっている。事故をめぐっては、複数の事故調が独自に調査を進めており、政府の事故調と東電の社内事故調が昨年12月に中間報告を発表した。このほか、日本原子力学会の専門家による事故調や、原子力と利害関係を持たない民間の有識者らからなる事故調も、それぞれ3月をメドに報告書をまとめる予定。