【ソウル時事】韓国の李明博大統領は18日の日韓首脳会談で、旧日本軍の従軍慰安婦問題で強く政治決断を求めた。日韓首脳会談で韓国側が慰安婦問題の解決を具体的に提起したのは初めてとみられ、同行した韓国大統領府報道官によると、大統領は発言の大部分を慰安婦問題に割いた。報道官は「張り詰めた緊張感の中で進められ、残念な思いが強く残る会談だった」と異例の発表。強い姿勢に出ざるを得ない状況を招いた日本側を批判した。ただ、問題解決は日本頼みなのも現実だ。
17日の在日本大韓民国民団(民団)の会合に続き、首脳会談でも具体的に提起したことで、単なる国内向けではないとの姿勢を鮮明にした。大統領はこれまで日本に対して「未来志向」を重視した対応を取ってきたが、次期大統領選まで1年となり、求心力は急速に衰えを見せている。異例の強い要求は、世論の「弱腰」批判を意識したのは明白だ。
大統領は、野田佳彦首相が日韓経済連携協定(EPA)交渉再開に言及したのに答えず、「経済問題の前に歴史の懸案だ」と口火を切った。さらに、ソウルの日本大使館前に設置された慰安婦問題を象徴する少女像に関しても、「誠意ある措置がなければ第2、第3の像が建つ」と撤去要請を一蹴した。
しかし、日本側を協議に応じさせる妙案があるわけではない。1965年の日韓基本条約に伴う協定は、第三国も加わった仲裁委員会での紛争解決も規定しているが、韓国政府関係者は「応じないからといって国際法違反とするのは難しい」と指摘。日本の同意がなければ、現実的には困難で、大統領は「法以前に国民感情の問題だ。何年かたてば元慰安婦はみな亡くなるかもしれない」と「情」に訴えるしかなかった。(2011/12/18-17:02)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011121800112
日韓首脳会談要旨
18日の日韓首脳会談の要旨は次の通り。
【従軍慰安婦】
李明博韓国大統領 両国関係の障害になっている慰安婦問題を優先的に解決する真摯(しんし)な勇気を持たなければならない。
野田佳彦首相 わが国の法的立場は決まっている。決着済みだ。人道的な見地から、これまでもわれわれもさまざまな努力をしてきた。これからも人道的な見地から知恵を絞っていこう。(市民団体が日本大使館前に設置した少女像について)誠に残念。早期に撤去してほしい。
大統領 日本政府がもう少し関心を示してくれれば、起きなかった。誠意ある措置がなければ、第2、第3の像が建つ。
【竹島問題】
首相 日本が提起している懸案はある。そのことについても全体に悪影響を及ぼさないように大局的な見地から共に努力しよう。
【対北朝鮮】
首相 日韓米3カ国の連携が極めて重要。非核化実現のために、北朝鮮の具体的な対応を求めたい。拉致被害者の一日も早い帰国が最も重要。韓国も拉致や離散家族再会の問題を抱えており、北朝鮮が具体的な行動を取るように連携したい。
大統領 (拉致問題について)韓国も日本の立場に非常に共感しており、協力を惜しまない。
【経済関係】
首相 日中韓の投資協定の交渉妥結、中国を含む枠組みの構築における日韓の緊密な協力は非常に重要だ。日韓経済連携協定(EPA)の議論を加速したい。
大統領 経済の前に歴史の懸案だ。
【日韓関係】
首相 日韓両国は共に米国の同盟国で、基本的価値観、東アジア地域の平和、繁栄の確保などの利益を共有している。重層的で未来志向の日韓関係を構築していきたい。
大統領 2国間の懸案だけでなく、地域、世界の関心事を解決するため、緊密に協力していくことがより大事だ。(2011/12/18-17:48)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011121800074
慰安婦問題 “具体策検討なし”
12月19日 13時22分
藤村官房長官は午前の記者会見で、18日の日韓首脳会談で、野田総理大臣が、いわゆる従軍慰安婦の問題に対し、人道的な見地からの対応を検討する考えを伝えたことについて、政府として、現時点で具体的な対応を検討しているわけではないことを明らかにしました。
18日の日韓首脳会談で、いわゆる従軍慰安婦の問題について、イ・ミョンバク大統領が総理大臣の政治決断で優先して解決するよう求めたのに対し、野田総理大臣は、法的には決着済みだという立場を示す一方で、人道的な見地からの対応を検討する考えを伝えました。これについて藤村官房長官は、記者団が「『人道的な見地からの対応』について、何か検討しているのか」と質問したのに対し、「具体的なことを想定しているわけではない」と述べ、現時点で、具体的な対応を検討しているわけではないことを明らかにしました。また、藤村官房長官は、大統領が、ソウルの日本大使館の前に慰安婦問題を象徴する少女の銅像が設置されたことに関連して、「日本政府が、従軍慰安婦の問題に誠意ある措置をとらなければ、第2、第3の像がたつ」と発言したことについて、「発言はそのまま受け止める。日本側としては、韓国側に像の撤去を求めている」と述べました。そのうえで、藤村官房長官は「さまざま問題があるとしても、大局的な観点では、経済連携などについては、前向きに進めていこうという姿勢は変わっていないと思うし、日本として、今後も主張し続けたい」と述べました。
質問なるほドリ:慰安婦問題を首脳会談で韓国が取り上げたのはなぜ?=回答・西田進一郎
<NEWS NAVIGATOR>
◇「違憲」判断で強硬姿勢に 日本は「解決済み」姿勢崩さず
なるほドリ 韓国の李明博(イミョンバク)大統領が野田佳彦首相との会談で、旧日本軍の慰安婦問題の解決を求めたね。
記者 大統領は就任以降、表だって慰安婦問題を取り上げてきませんでした。しかし、今回の首脳会談では「両国関係に障害物になっている従軍慰安婦問題を優先的に解決しなければならない」と訴えました。
Q なぜ今回取り上げたの。
A 韓国の憲法裁判所が今年8月、「韓国政府が元慰安婦の賠償請求権問題の解決に向け努力していないことは元慰安婦の人権を侵害していて、憲法違反だ」という判断を示しました。判断の後、韓国側は日韓外相会談などでこの問題を取り上げ、日本政府に対応を求めてきました。しかし、日本政府が応じる姿勢を示していないからだとみられます。
Q 日本政府はなぜ応じないの。
A 日本と韓国が国交を正常化した65年の日韓基本条約に伴う協定で、両国間の請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」と確認しているからです。ただ、実際に慰安婦問題が注目されるようになったのは90年代初頭からです。韓国側は、国交正常化交渉の時点で議論されなかったことなどから、慰安婦問題は協定の対象に含まれていないと主張しています。
Q 日本政府は慰安婦問題で謝罪をしていなかったっけ。
A 93年に当時の河野洋平官房長官が談話を出し、「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である」とし、おわびと反省の気持ちを示しました。そのうえで、道義的責任を果たすため、国民からの寄付金と政府が事業資金を拠出する形で95年に財団法人「女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)」(07年に解散)を作り、償い金や歴代首相の「おわびの手紙」を送りました。
Q 韓国では受け入れられなかったということなの。
A 韓国では償い金などを受け取らなかった人が多かったといいます。日本政府が改めて謝罪と賠償をすることを求めているようです。
Q 接点が見当たらないね。
A 民主党の前原誠司政調会長が10月に訪韓した際、アジア女性基金にも触れながら、「人道的見地から考える余地がないか」などと述べました。しかし、日本政府は否定的で、新たな措置を取ることは難しい状況です。慰安婦問題は当面日韓関係をぎくしゃくさせそうです。(政治部)